一般財団法人アーネスト育成財団

グローバル研究会(世界経済の動向調査)

2014.11.18  クローバル研究会 (第4回)

    研究会では、西河洋一理事長から『イタリア報告』、小平和一朗専務理事から『グローバル化における問題、その原因を分析する(アンケート集計)』、杉本晴重理事から『大手通信企業の海外展開の教訓』、前田光幸座長から『グローバル展開の段階的マネジメント』、浅野昌宏理事から『イスラム国と周辺情勢』などについて報告があった。 

<議事録4-1>(23KB)

研究会

前田光幸座長は「グローバル展開とは、自社あるいは自社とアライアン
スを組むグループが生み出せる価値を国内、海外を問わずに、どこでど
のように展開するかということであり、発想が全く違う」と報告した。

「大手通信機器企業の海外展開の教訓(一例)」(杉本 晴重)

「大手通信機器企業の海外展開の教訓(一例)」と題して、杉本晴重理事から担当者として従事した会社での海外事業展開例を紹介し、日本企業の海外事業進出における教訓の参考になればと報告があった。
日本人育成、現地人育成、日米経営の連携、市場拡大に伴うリソース問題、ビジネスチャンスとリスクの見極めと決断、継続的開発と事業拡大、ブランド確立に関する報告についてその一部を紹介する。


(1)日本人技術者の育成に役立つ
日本人技術者には良い経験であり人財育成に繋がった。特に米国人マーケッターのマーケティングが非常に参考になった。経営トップは常に社員にチャレンジさせる場(市場、新事業、新機種など)を与える責任があると考えている。
(2)現地人の育成
現地人は、ほとんど3~4年で会社を異動してしまう。退社理由は、次のキャリアパスへの挑戦、人間関係、給与待遇などである。現地人の人財育成に取り組めなかった。
(3)日米経営の連携
日常オペレーションは現地トップマネージメントに任されており、日本側との連携が必要であったが、本社と子会社の責任と権限や十分な連携が取れたか、迅速な対応が取れたか等、経営面での課題もあった。
(4)市場拡大に伴う商品開発体制
北米市場は大きく、それなりのリソースを必要とするが、新機種開発などは日本側がほとんどだったので、日本市場向けとリソースの取り合いになり、リソースネックが問題となる。
(5)ビジネスチャンスとリスクの見極めと決断
市場開放と技術革新というビジネスチャンスを掴んで第一弾は成功しだが、増産時の品質問題、次の市場変化、技術変化を見誤って危機を招いた。色々な要素が絡むが、より客観的にシビアな目で見て判断する必要があった。
(6)継続的開発と事業拡大、ブランド確立
機種開発での事業継続・拡大は大事であるが、会社全体をみた他の事業との連携、グループトータルな事業戦略とブランド確立の認識、努力も必要である。

杉本晴重知事

海外での経営経験の中から、「ビジネスチャンスとリスクの見極め
と、さらには決断が必要」と、杉本晴重知事から報告があった。

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「グローバル展開の段階的マネジメント」(前田 光幸)

<議事録 4-2>(76KB)

グローバル展開に関わる主要な意識課題

(1)グローバル展開と海外展開とは違う

グローバル展開を海外展開と勘違いしてはいけない。
海外展開とは、国内市場が成熟化しているので、海外市場(特にアジア)の成長を獲得する為に出ていくということである。
他方、グローバル展開とは、自社あるいは自社とアライアンスを組むグループが生み出せる価値を国内、海外、関係なしにどこでどのように展開するかということであり、発想が全く違う。

(2) 低コスト、低機能の製品を提供し、ボリュームゾーンを狙う

国内市場でこれまで行って来た高品質・高機能な部品、製品、サービスを海外で展開しようとするとアジア新興市場ではハイエンドな市場は狙えても、ボリュームゾーンには入れない。ボリュームゾーンを狙うためには、低コスト、低機能の製品を提供する必要がある。
しかし、日本企業は経営者、技術者、製造現場含めて、低機能・低品質なものを造ることに強い抵抗がある。「そんなものは作れない。自分たちの存在意義がない」となる。そういう発想ではなく、180度視点を変えて、「インドやインドネシアの大多数の人は年収数万円以下で大変貧しいが、生活を向上させたい、便利になりたいという希望を持っている。だから3,000円のTVを作って提供しよう」という発想に変える必要がある。
やがて10年もすれば、3万円のTVの顧客になる。これを韓国、中国企業が低コスト、低機能で展開を図っている。そして、彼らは着実に進歩して、低コスト、中機能なものを提供していくことになり、ハイエンドを狙った日本企業はニッチに追いやられ、アジアの成長から蚊帳の外に追いやられることになる。
かつて、欧米企業を席巻した日本企業の軌跡を彼らがまんまと辿ることになる。だから、日本企業はやりやすいハイエンド市場をねらうのではなく、ボリューム市場を狙わなければ明日はない。
その際、三つの要素の変革が必要だ。
要素1:バリューチェーンを低コスト化追求型に組み替えること。その為には開発、マーケティングの現地化が必要。
要素2:人材育成については本気で自社の知の伝承と現地化が必要。現地人材の獲得と長期勤続の為にブランドの強化が望ましい。ブランドが弱い場合は、現地の強いブランド企業との提携や、人脈の形成が重要。
要素3:マネジメント・コントロールについては本社と現地の責任と権限の柔軟性が重要。

図1 グローバル化の3要素

(3)市場進出は段階的に、異なる重点化と戦略が必要

現地市場進出については段階的に、異なる重点化と戦略が必要となる。
即ち、輸出型、メンテ・サービスシフト型、製造シフト型、開発シフト型の4段階で、それぞれにやることがかなり違うという認識を全社で共有する必要がある。

図2 グローバル事業展開とバリューチェーンの4段階モデル

前田座長

「日本企業は経営者、技術者、製造現場含めて、低機能・低品質な
ものを造ることに強い抵抗がある」と報告する前田光幸座長。

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「イスラム国と周辺情勢」(淺野 昌宏)

<議事録 4-3>(65KB)

イスラム過激派の動きは、中東情勢を不透明にしており、北アフリカの「アラブの春」も関連して来るが、先ずは、米国が脅威と考えている「イスラム国」の現状と見通しを整理して見た。


1.今日の中東の不安定をもたらしているもの

中東の不安定をもたらしている要素は、いろいろの切り口から見る事が出来るが、中東で永らく暮らした者の観点から三つの要素で整理をしてみたい。
一つは、欧米のアラブ・イスラム世界に対する、配慮が欠けることがトラブルの発端になっていること。
二つは、歴史的に見ても中東には強力な指導者が必要なこと。
三つ目は、イスラム過激派グループの存在と増大と、それを増大させる環境を欧米が作りだしている。

2.イスラム過激思想とは何か

先ず、イスラムだけではなく、宗教というものは本来、社会的にはラジカルなものであり、宗教を信じるということは、自分の宗教が唯一正しいということになり、論理的には他の宗教は否定せざるをえない。それをその通りに実践すれば、人類は果てしない対立に陥るが、それを避けるため実際には、信仰は個人的なものであり、他人が同じでなくても構わないとのコンセンサスを作りだしている。
しかし、世界の多くの地域で、宗教は個人の単なる信仰に留まらず、社会の共同体に結びついている。人々は自分の意思で入信するのではなく、生まれながらにして自動的にある宗教共同体に属するが、そこで人間社会の闘争が、宗教・宗派という共同体を単位として生まれると考えられる。

3.イスラム国の実像

(1)組織
サダム・フセイン政権時代の将校や政治家が中核指導者となっており、カリフを呼称しているアブ・バクール・アルバグダーディーの下、旧イラク軍将校が最高指導部を構成している。
財務、国防、広報などの行政機関の評議会も存在し、更にその下に、地域支配を担当する24人の知事が配置されている。
評議会の構成員は、旧イラク軍の将校や政治・行政経験のあるバース党員などのイラク人と言われている。国家としての体裁を整えつつあり、防衛省、保健省、電力省などの他に、警察組織もあり、パトロールカーも巡回させている。
(2)支配領域
2014年6月29日にイスラム国家の樹立を宣言し、首都をラッカ(シリア北部)に置き、シリア北部からイラク西部に亘る一帯を支配している。その支配領域の合計面積はイギリスより広くなっていると言われている。イラク北部の油田地帯も含まれることから、8月下旬の時点では、3万B/Dの原油を密輸し、1日あたり200万ドルの資金を調達していると見られている。
(3)敵対勢力
当初は、シリア内戦の反政府勢力と見られていたが、トルコ国境の自由シリア軍の制圧地を攻撃して、制圧支配したり、イスラム過激派のヌスラ戦線とも衝突を繰り広げるなど、シリアのアサド政権側とも反政府側とも言えず、状況を複雑化させている。
一応、敵対勢力は、イラク駐留軍、イラク治安部隊、イスラム革命防衛隊、ヒズボラ、シリア軍、自由シリア軍、トルコ軍など報じられているが、上述の通り、状況は可変的である。

4.シリアの騒乱の背景

シリアは1962年以来、非常事態法の下にあり、憲法による国民の保護は事実上停止されていた。シリアがイスラエルと戦争状態にあったことを理由に、非常事態宣言が正当化されていた。
1963年、バアス党の支配下で、大統領は国民投票により選ばれていた。
1970年以降、ハーフェーズ・アル-アサド大統領は対立候補者を選挙から締め出しながら、30年近くシリアを指導してきた。
2000年にハーフェーズ・アル-アサドの死去で、息子のバッシャール・アル-アサドが改革派として期待され、後継者として登場した。
アサド家はシーア派の中でも少数派のアラウィ派で、人口の10%程度。シリアの人口の3/4はスンニ派であり、治安機関の厳格な統制が敷かれており、ここに反政府運動が広がる素地があった。
2011年1月26日ハサカのハサン・アリ・アクレーがシリア政府に抗議して、ガソリンを被って火を放ち自殺した。その一ヶ月前にチュニジアで同様の抗議自殺があり、反政府運動に火がついた。
その後、米国が反政府運動を支援し、アサド政権潰しに走ったことは、報道されてきた通り。
ここで反政府勢力がバラバラに出現してくることと、住民だけではなく近隣のイスラム系勢力が参画して来ることが中東の特徴とも言える。
湾岸諸国は、当初政府側を支持する国もあったが、次第にスンニ派の反政府勢力を支援する様になり、一方、イランはシーア派として政府側を強力に支援した。
米国は反体制側に非軍事的支援として資金援助を行い、ロシアは従来の関係から政府側を支援した。
一方、隣国のトルコは国内に分離独立を掲げるクルド勢力(クルディスタン労働党)を抱えており、事態を静観しシリアとの国境の通行を厳しく取り締まることはしなかった。その結果、イスラム過激派勢力やイスラム国にリクルートされた欧米からの志願兵が多く入り込むことになった。

5.イラクの情勢

「イスラム国」がイラクとシリアとの国境を破壊・超越してイスラム共同体として活動し、また、クルド自治政府が独立をも視野に入れて活動しており、強力な指導者のいないイラク政府がこの事態を独力で解決出来る情勢にはない。
今後の情勢次第では、クルド政府、スンニ派が中心のイスラム国、シーア派が中心の政府と3つに分かれた統治となる可能性もあると思われる。

淺野昌宏理事

「オバマ政権はそもそも前ブッシュ政権が始めたイラク戦争を
批判して当選し、イラク、アフガニスタンからの撤退を進めて
きた背景があり、全面的な介入は難しい。今のペースでの対応
が続けば、イスラム国壊滅といっても、1~2年はかかるのでは
ないかと予想する向きが多い」と報告する淺野昌宏理事。

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【質疑】
中東地域の不安定は、何時の場合も、日本経済にとってはマイナス要因 

質問(前田座長):米英仏が関与せず放っておいたらどうなるのか。

回答(淺野):それが一番良い。金も出さない、何もしないで放っておけばその内に収まる。

質問(大橋克己研究員):イスラム国がイラクに攻め込むとして、何処まで行けるのか。

回答(淺野):バグダッドまで、即ちスンニ派のエリアまでだろう。スンニ派のエリアでは支援があるが、支援のないシーア派のエリアに入るのは、今の兵力では無理。

質問(大橋):放っておいたら、ある力のバランスで固定化するのか。

回答(淺野):米国から見て困ることは、国境線が意図しない所で引かれてしまうこと。

質問(小平和一朗専務理事):クルド人の中に、イスラム国はあるのか。

回答(淺野):一部入ったが、クルド軍に跳ね返えされており、アルビル(クルドの町)には入れていない。

質問(小平):大統領はクルド人と聞いているが。

回答(淺野):部族のバランスを取って大統領はクルド(実権なし)、首相は穏健シーア派となっている。

質問(大橋):クルドに独立する発想はないのか。

回答(淺野):イラク国内のクルドは、機会があれば独立したいと考えてきた。

意見(前田):クルド地域には油田があり、金はなんとかなる。

質問(杉本晴重理事):シリアのアサドは死に体なのか。最近あまり聞かないが。

回答(淺野):アサドは、北はあきらめて、南でやってゆこうと思っているらしい。

質問(大橋):やくざの出入りの様にグジャグジャになっているということか。

回答(淺野):このエリアは単一民族が住んでいる訳ではなく、宗教、宗派、部族など入り混じっており簡単にはいかない。

質問(前田):米国はシェールオイルまでは、イラクの油田に執着していたが、今は、中東に対するインタレストが減っている。サウジもイランも、シリアやイラクが平穏になり、イラクに増産されると困る立場にある。

質問(大橋):日本にはどの様な影響があるのか。

回答(淺野):中東地域の不安定は、何時の場合も、日本経済にとってはマイナス要因である。

質問(小平):この事態が、サウジに飛び火すると恐ろしいことになる。

回答(淺野):サウジの王政については、志願兵が戻ってきて中から転覆される可能性の方が大きいかもしれない。

質問(西河洋一理事長):米国が手を出さない限り動かないのでは。

回答(淺野):イランの背後にロシアもあるので、その辺のバランスの問題もある。イスラム国に志願していた人たちが戻ってテロ分子として活動することが怖い。

質問(前田):サダム・フセインをやってしまったのが問題ということか。

回答(淺野):フセインを放っておいても、その内に実力で倒す人が出てきたはず。その者が引き続き平穏に治めたのではないか。欧米流の民主主義が成立するには、人種や宗教の均一性がいるのではないか。米国は多民族国家だが、キリスト教というベースのもとに成り立っている。

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