一般財団法人アーネスト育成財団

HRM研究会

2017.1.13 準備会合(第4回)

打ち合わせメモ (614KB)

平成29年1月13日、財団にてHR研究会準備会合(第4回)を開催した。本研究会準備会合は「グローバル研究会」での議論の中から組織や人財に関わる問題を抽出し、現状読み切れていない部分を浮き彫りにし、次の研究課題として抽出することを目的にしている。
今回の会合で、小林氏が『中小企業に於ける海外展開の現状と課題-グローバルビジネスと人財育成-』 について報告をした。
中小企業が海外に展開している現状の状況と課題、海外展開の成功のポイント、今後の改革ということで海外展開支援策や支援活動を展開する組織などを報告した。

小林講師

『中小企業に於ける海外展開の現状と課題-グローバルビジネスと人財育成-』と題した講演をする小林講師

中小企業の事業状況概観

売上で見ると、ここの2~3期は、回復とはいえないですが、低位のところでずっと推移している。
少し回復気味だという専門家もいるが、もう一つ、設備投資という見方をすると、非常に設備投資が出来ていない。ラインが老朽化しているという。そういう意味で、大企業とは歴然とした差がある。
大企業が海外展開するという事に端を発して、それに関連する取引関係の中小企業が展開して行って、そこで何が起きたかというと、地域にある産業集積が崩壊した。
色々なところで、産業集積が大企業を中心にモノづくりのエリアが出来たのが、日本経済の成り立ちだが、そのような産業集積が崩壊し、衰退した。
一つ事例を見ると、東大阪がある、大田区もそうだし、日立もそうだ。私は日立地区をずっと研究していたので、日立地区も酷くて、日立地区の仕事は8割無くなった。2割しか残らなかった。
愕然とするような状況である。
昔は日立の海岸工場があったが、昔は亀の甲の日立マークがあったが、あれが三菱のマークに変わった。それくらいドラスティックに改革が進んだ。私から見ると改革ではない。海外展開をした負の遺産として、色々な集積の崩落が始まっている。

国内需要低迷と海外市場の重要性

未だに集積地は、どんどん衰退が進んでいる。中小企業は、1999年ころ420万社あった。今日現在は、380万社位。40万社減っている。それくらい大きな打撃があって、結局国内市場は、人口の減少・少子高齢化も含めて需要がどんどん減少し、いよいよ市場は、東アジアを一つの市場として考えざるを得ない環境に、中小企業もなってきた。
日本は少し良くなってきた感じではあるが、これからまた下がるのかもしれない。一方、中国、アメリカは伸びている。インドも拡大していく。色々な事件があるが、ASEANもある意味では拡大・成長の方向にある。こういう市場に向かって行かざるを得ない環境に、いよいよなってきた。
日本でやる付加価値も無いことは無い。例えば、開発の利便性が必要で、直ぐに開発して物を納めるといった短納期対応だとか、あるいは特殊な技術・技能が必要だとか、そういうのもあるが、絶対的には需要規模がどんどん下がってきている。それに替わるASEAN、インドや中国への展開をせざるを得ない。そこに市場がある。

中小企業の海外展開の規模推移

中小企業の直接輸出で見ると、生産拠点として展開するわけではなくて、どうやって品物を売っていくか、ある意味では地産地消で現地のニーズに合ったスタイルで開発して売るというところまで中小企業は、まだまだ入り口ではあるが思い始めていて、直接輸出で見ると、結構カーブが上がって来ている。更に右肩上がりになるという考察をしている。(図1)
ただ伸び率で行くと、中小企業が大企業の伸びを超えているくらい、海外展開・直接輸出の企業数が大きく伸びを示している。

図1

図1 組織と人財(生来能力と獲得能力)

中小企業の海外展開で大きいのは、人材資源に関する課題

現状から見た課題は、一言で言うとリソースが非常に小さい。金も人も、そういう意味でリソースの課題がある。それから、残念ながら、組織立っていないし専門組織も企業の中には無く、進出先の商習慣や法制度、ビジネスのやり方等々の知識がないので、対応が非常に難しい。現地にチャネルやパートナーがいない。最後には人材の問題である。そういう問題が海外に展開するときにある。

一番大きいのは、一言で言えば、やはり人材資源に関する課題か。「外国人従業員の労務管理が難しい」「経営管理者の人材不足」だとか、辞めてしまわないためにはどうやって人材を留めるか。良い現地人を採用して、どうやって育成して、日本の企業文化を教え込んで、どこかに辞めてしまわない様に留めるか。そういうスキルが大きな課題になっている。

私がずっと支援をしていて思うのは、海外に出ざるを得ない厳しい環境になっているけれども、それ以前に、経営者自身の海外に対する意識・スキルが非常に低い。あまり皆には言えないが、現実には低いという事があって、そこをどうやって改革をしていくかというのが、中小企業自身も(支援をする)我々も、大きな課題だと思っている。

中小企業庁の調査から見える課題

  • 1)資金的な余裕がない
  • 2)進出先の商習慣や法制度の知識がない
  • 3)現地に信頼できるパートナーがいない
  • 4)海外直接投資に詳しい人材がいない

中小企業が海外進出にあたっての成功へのポイント(8項目に集約)(注1)

(1)海外を自ら体験する事
事業を取り仕切る経営者が当該国での事業に情熱を持つことが出来ない場合には、進出後の運営も人任せになったり管理が行き届かなかったりするため成功に結びつかない場合が多い。

(2)進出先国・地域特有の事情の把握
専門家のアドバイスを受けるなど、事前に十分な対策を講じ自社リスクを最低限に抑えておくことが必要となる。

(3)周到な事前準備
自社が当地で発揮できる強みは何か、という点を事前に調査しておく事が重要である。

(4)高い技術力や独自性とそれらの恒常的な追求
対象国での知的財産権保護をしておく特許、技術、ノウハウの提供範囲を限定するなど、保護策をしっかりと練ることも重要である。技術供与は技術の核となる部分は開示しないなどの措置が必要である。

(5)信頼できるパートナー(人物の見極めが重要)
多くの企業がパートナーの見極めが最も重要であると指摘している。特に、相手先企業トップの人間性を、経営者自らの目で見極めることが必要である。

(6)綿密なコミュニケーション(現地の言葉、中国では中国語が必須)
自社独資の100%子会社であっても、現地従業員を上手く登用し、現地従業員と現地語で対話し、現地の人々の感覚を理解する努力をするなど、進出国への尊重を示すことは海外事業の円滑な運営を可能にするため

(7)独立した海外事業(現地の経営は現地に任せる、任せられる人材が成否の鍵)
権限委譲によって、海外現地法人に意思決定を委ねる事は、経営判断のスピードアップにもつながる。

(8)海外に向けた情報発信(現地に出向く、現地を知る)
展示会への参加やウェブの活用など、常に技術や製品を広く知ってもらうための努力をしている。

(注1)成功へのポイント(10項目に集約)『中堅・中小企業の海外展開における国際連携動向調査』結果より編集(独法)中小機構、平成25年3月

今後の改革

「人財確保・育成アドバイザ」支援策
一言で言うと、NPOや財団、公共機関が、リソースの足りない中小企業の海外展開を大きくサポートしないと成り立っていかない。支援策として中小機構が「人材確保・育成外部アドバイザ」支援策で一所懸命やっている。具体的な支援策の事例である。

経産省中小企業庁「中小企業海外展開支援施策集」
一「人材確保•青成外部アドバイザ一」に関する支援策の抜粋一

  • 貿易実務や契約実務などの基本的な知識習得
  • フィージビリティースタデイ(FS)やテストマーケティングなどに関する情報収集
  • アドバイザーの活用 •海外での業務経験を積む派遣制度
  • 国際協力等の新興国での異文化適用能力を有した人材の紹介
  • 知的財産管理に関する支援

地域で支援活動を展開する組織(関東地区事例)

民間のNPO法人(経営支援NPOクラブ等)のようなところが海外支援で色々やっていて、連携している組織として、地域のセンターだとか、公共機関、NPOや公益機関、あとはJICAである。

それから支援財団だが、どちらかというと中小企業庁、経産省あるいは東京都、横浜市とか公共のところから派生した財団で、そういうミッション・使命を担っている。
横浜や東京などは結構お金を使っている。期に1~2億円くらい海外支援事業に使っている。私がいる「さがみはら産業センター」も結構やっていて、1億円くらい使っている。そういう大きな支援で中小企業の海外展開が成り立っている。

中小企業自身が意識改革して、自分でイノベーションをして海外に打って出るという事をしないと駄目なのかも知れない。日本の企業数の99.7%は中小企業で、大手は0.3%しか無いわけで、この99.7%の中小企業をどうやって再生するかというのが、大きな社会の命題だと思う。いずれにせよ、「生産拠点展開」から「市場展開」へと大きく舵取りをしつつある。その裏には、現地企業・新興国のいろいろな中小企業のモノづくりも進化している。日本の中小企業の進出は要らないという事になりつつあるのかも知れない。

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