一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第4回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

松下政経塾が目指した人財の育成

岡田 邦彦(おかだ・くにひこ) (元・松下政経塾 塾頭)

日時 2013年4月9日(火) 17:00~19:00 (講演60分、質疑30分他)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

パンフレット(974KB)

テーマ:松下政経塾が目指した人財の育成

1980年、故松下幸之助は私財70億円を投じ、各界の人材育成を目的として松下政経塾を設立した。松下政経塾は、その後32年間に、首相を始め30名以上の国会議員を始め、多くの知事、市長、地方議員などを輩出し、日本の政界の常識を大きく変えることができた。
松下翁は、自らの経験を基に、本物の国家経営者を育成することを願っていた。国家が危機に瀕するとの翁の予言は、大変残念ではあるが、そのまま現実のものとなり、日本は今、未曽有の国難にある。松下翁は何を考え、何を残そうとしたのか?
実際に松下翁から受けた薫陶と、その後長年にわたる国内外での教育経験をもとに、人材育成のポイントと現状日本が抱えている問題と課題について語る。

【講師略歴】

岡田 邦彦(オカダ・クニヒコ)氏

東京大学法学部卒。松下政経塾1期生として入塾。卒塾後、同塾主担当、主幹を経て塾頭。退職後、米国ジョンズホプキンス高等国際問題研究大学院、ハーバード大学パブリックリーダーシップ研究所客員研究員を経て、2005年より早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授。早稲田大学公共政策研究所招聘研究員。特定非営利活動法人国際戦略シナジー学会副会長。

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元松下政経塾頭 岡田邦彦氏講演

『松下政経塾が目指した人財の育成』

当財団は、人財育成事業として、人財に求められる能力要素の整理、人材発掘戦略と戦術、人財の具体的育成方法や活用法などの研究に研究委員会で取り組みを始めた。研究委員会の課題に、技術経営人財の養成機関(リーダー、人間力)の運営、世界一といわれる「実践ビジネスオペレーションスクール」の創設がある。

講師の岡田邦彦(おかだ・くにひこ)氏は、松下政経塾の1期生で、塾頭の経験もある。松下翁は、自らの経験を基に、本物の国家経営者を育成することを願っていた。松下翁から受けた薫陶と、その後長年の国内外での教育経験をもとに、人材育成のポイントと日本の現状抱えている課題について語ってくれた。

セミナー写真

講師の岡田邦彦氏(中央)は「松下政経塾は約32年間に、首相を始め30名以上の国会議員、
多くの知事、市長、地方議員などを輩出し、日本の政界の常識を大きく変えた」という。

講演概要

講演内容詳細 (88KB)

今日は「人財を育成するとはどういうことなのか」「松下政経塾は、どういうことを心がけて人財育成をしてきたのか」について話をしたい。松下政経塾は、まだ評価が一定しない。昨年、同期の野田君が民主党の党首になり、総理になり、閣僚も松下政経塾出身が沢山入った。しかし松下政経塾は、民主党の議員だけを出しているのではなくて、自民党の議員も沢山出している。今日は、その誤解だけでも解きたい。

人間には、無限の可能性があるという人間観

毎朝唱和する松下幸之助氏が作った『塾是』がある。「真に国家と国民を愛し、新しい人間観に基づく政治・経営の理念を探求し、人類の繁栄幸福と世界の平和に貢献しよう」というのがある。「新しい人間観」というのは、特別な言葉である。「人間には、無限の可能性がある」というのが、松下幸之助の考えで、それを「新しい人間観」と言っている。

『塾訓』に「素直な心で衆知を集め、自修自得で事の本質を究め、日に新たな生成発展の道を求めよう」がある。雑誌PHPの裏表紙にも「素直な心になりましょう」と必ず書かれている。素直な心というのは、何事にもとらわれない心のこと。人間は、教育や経験などを通して、何かしらの偏見を持ち、サングラスを掛けている。それを通して見るので、正しく見えない。松下氏は「素直な心で物事を見ることが非常に重要だ」と言っている。「自修自得」も特別な言葉である。最終的に自分で求めることをしない限り、ものごとは身に付かないということである。

『五誓』、これも毎朝唱和する

(1)素志貫徹の事 最初に決めたことは、初志貫徹しなさい。成功の要諦は、成功するまで続けるところにある。途中で止めてしまっていたら、何事も終わりである。

(2)自主自立の事 「人を頼ってはいけない」ということ。

(3)万事研修の事 全ての物事の中にヒントがある。どんな人も自分の先生であると思って聞きなさい。自然の現象からも何かを気付けという。

(4)先駆開拓の事 「既成にとらわれるな」ということを良くおっしゃっていた。囚われてはいけない。絶えず創造し、開拓していくことが大切である。

(5)感謝協力の事 どんな人材を集めても、和がなかったら成果は得られない。幸之助は、日本人の特質を第一に挙げるとしたら「和」の精神だといっていた。

掃除が出来ない人に、何ができるのか

政経塾は、早朝に敷地を塾生が掃除する。早朝の掃除は、結構つらい。幸之助は「掃除が出来ない人に、何ができるのか」という。外国人のインターンの中には掃除などエリートのすることではないと思っている人もいた。茶道や剣道なども含め、日本の伝統文化から何かを学びなさいといった。

1年目は、基礎的な勉強をする。国家ビジョンの探求とか、現場実習などである。

教育は人が人を教える。人に接触しなければ学ぶことはできない

入塾後、役員と講師全員に自分の考え方を書いた手紙を出した。その結果、随分、たくさんの方々には直接お会いできた。電話でアドバイスも頂戴した。とても勉強になった。人と接触しなければ駄目で、耳学問であっても、お会いした方の経験がインプリントされる。上質の人に会わなければ駄目である。良いもの読むことも重要であるが、大切なことは人と会うことだ。塾頭のときも、心掛けた。

セミナー写真

「良いもの読むことも重要であるが、大切なことは人と会うことだ」と語る岡田氏。

高い意識を常に持たせることは重要

(1)人財育成方針を明確にし、ぶらさない

一度決めた方針を変えない。少なくてもその組織が存在する以上は変えない方がよい。方針が振れると組織はだめになる。だから、最初に余程よく考える必要がある。

(2)入塾選考を30倍以上保つ

塾生を採用するときは、倍率を30倍以上にした。これは、質を低下させないために、経験則上学んだことだ。応募者が少ない時は採用数を減らし、30倍以上とした。

(3)人物を良く見る

人物が悪くては、能力があっても駄目である。履歴書を見るだけで、だいたい人物を見ることができるようになった。

(4)自修自得、自己責任

自分で工夫して何かを習得させることをさせないと伸びない。人から言われてやったことは、どこかに甘えが出る。

(5)全寮制

全寮制は重要である。全寮制が無理であれば、お互いに接触する時間を長くする。お互いに啓発する、触発することがとても重要である。昔の旧制高校もそうであった。だから良い人物が出来たと思う。全人格的に付き合うことから人格も磨かれる。

(6)国家を意識させる

30年前は日の丸を立てただけで、右翼という見方が強かった。「国家のために」という精神はどんな時代にも非常に重要である。

(7)目標を常に持たせる

高い意識を持たせることが重要である。だれてくるといつの間にか意識が低くなる。高い意識をキープさせることが重要である。

(8)一流の講師をそろえる

(9)実践をさせる

学ぶだけでなく、実践させないと駄目である。実践には少なくても3年以上時間をかける必要がある。1年、2年では難しい。

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質疑応答

会社には技術があり、技術は人が持っていることを無視しては崩壊する

質問(野口志郎):グローバル資本主義とどのように対応すれば良いのか?

回答:グローバル資本主義のもとでは、投資、投機の量とそのインパクトがすごい。世界には、流動資産として何京円かあり、地球を雲のように覆っているそうだ。儲かるとなると瞬時に投資され、儲からないとなると引き上げられる。すると、経営は安定しない。投資家は、そこで短期的であれ利潤を得ることが目的なので、会社がどうなるかは関係がない。日本では、かつて、会社はむしろ社員の生活を守ることが社会的な使命であるとされていたのだが今は難しい。技術は人が持っていることを忘れてはいけない。

先天性9割だが、政経塾で学んだことは生きていると思う

質問(坂巻資敏): 岡田さんが「人を育てることが大事だ」ということは、私も企業の経験から同感である。幸之助が元気な時に教育を受けた野田さんが、どうして期待外れの総理になったのか?それは、教え方の問題なのか?習う人の素質なのか?

回答: 先天性9割、教えた効果1割。表現方法を発展させるのは、教育である。野田元総理の場合は、弁解ではないが、過去の負債が大きかった。自民党時代の負債もあり、政治はなかなか難しかった。(民主党は)自分自身が思っていることを実現しにくい集団であったことも原因だ。

「日本をつくるのは政治だけなのか」という疑問

質問(寺尾謙): 6年程前に、ある学会のイベントで1泊2日の体験入塾をした。28期生の5人位とディスカッションをした。彼らは、全ての終着点が「政治でしか日本は変えられない」と行き着いてしまう。5人の内の4人が参議院議員や衆議院議員になっている。松下政経塾に入る方は、政治家になることが目的化している印象をディスカッションから受けて、松下政経塾に良いイメージを持たなくなった。政治家になることが目的か、日本を変えることが目的かについて伺いたい。

回答: 「政治を変えないといけない」と幸之助は言っている。各界の人材を育成することが松下政経塾の目的。それは設立趣意書にも書いてある。私の考え方は遠回りのようだが、実際にはそちらの方が、政治を変えられると思う。米国ハーバード・ケネディスクールでは、学んだ人の1,000人に1人しか政治家にならない。松下政経塾は4割から5割が政治家になる。人材には、厚みが必要だ。

セミナー写真

政経塾に体験入塾したことがある寺尾氏(右上)
「政治家だけでなく、マスコミとか、ジャーナリストとか。大学の先生になる方も少ない。
なぜ幅が広がらないのか。塾生と議論しても『政治しか変えられない』と帰結してしまう」と疑問を投げる。

古典を読むことは、有効に人生を機能させる

質問(清水真人): 大学時代からの友人が松下政経塾に入塾した。「将来良い方向に変えて行こう」と生意気なことを言っていた仲間だ。グローバル化が進む中で、今の若者はこういうものを身に付けなければならないということがあれば。

回答: 日本の先が見えない。夢が無い。我々が若者だった時代は、高度成長期で右肩上がりであった。これから人口が減る。30年先、7千万人になる。人口が減れば、どんなに頑張っても経済力は衰える。どんな時代でも生き抜ける人間になってもらわなくてはならない。そのためには、逞しくなって欲しい。柔軟でなければならない。気になるのは、最近の人は古典を読まないことだ。中国の古典でも良いし、ギリシャ、ローマの古典でも良い。古典を読むことは、厚みのある人生を送るために大切だ。人間の生き様の殆どがそこに書いてある。

古典の良さが、ある年齢に達すると分かるようになる

質問(平): 「マッカーサーが日本の教育を変にした。それは日本の道徳教育が無くしてしまったことだ」とよく聞くが、松下政経塾の中で道徳とか古典を教える授業はあったのか。

回答: 中国古典を教える授業や輪読会があった。その頃は、それらの授業の意味がよくわからなかったが、今、とても重要だったと思う。

「和する」ことを目的とする気持ちは失ってないと思う

質問(西河洋一): 松下幸之助のファンである。おそらく幸之助が今の日本を見たら、「あかん政治をしている」と一言一喝されると思う。現に政界には相当政経塾からの卒業生は入っている。本来であれば松下新党を作るべきかとも思うし、色々な党に行って纏めることをしても良いと思うが、話を聞くとただ喧嘩をしているだけだ。

回答: 松下幸之助氏の考えが徹底されているとは言えない。しかし、「和する」ことを大切にする気持ちは失ってないと思う。

政経塾が無かったら、日本の政治はもっと悪くなっていた

質問(西河): 幸之助は「政治が良くなれば経済も良くなる」と言った。おそらく経済が基軸でやれば日本が良くなるというものだと思う。学ばれる方もそういう概念をもう一度整理し政界に出ていって頂くと、我々経済を担当している人達も助かる。

回答: おっしゃる通りだ。政経塾が無かったら、日本の政治はもっと悪くなっていたと思う。お金が無い普通の人でも政治家になれるようになった。

松下政経塾と競合するような組織が無いのは良くない

質問(坂巻資敏): 松下政経塾の卒業生は非常に優れた資質を持っている方が多い。松下政経塾には同窓会はあるのか。そこで塾長さんが指導することは出来ないのか。卒業したら自分達で勝手にやりなさいでは、和はできない。

回答: 小グループでは色々なところで集まっている。全体というと難しい。松下政経塾と同じような競合する組織が無い。競争があると、逆に和ができると思う。

セミナー写真

「卒業生、小グループでは色々なところで集まっている。全体というと難しい。現状、松下政経塾と
同じような競合する組織が無い。競争するような組織があると、逆に和ができると思う」と語る岡田講師。

幸之助は「今の政治家で先生といえる人は一人もいない」と言っていた

質問(大橋克已): 30倍くらいの中で選ばれて、自分の思いがあって入塾する。「自主自立」ということで、3年間学んで出る。この最初の思いと、出るときにはそれぞれの志の部分が変わるものか。人の成長があるものか。人財育成の成果を松下政経塾として、どのように把握し、評価されているのか。もう一つは、講師陣の中にプロの政治家がいなかった。

回答: 人によって成長する人とそうでない塾生がいる。今は政治家が理事に入っているが、初期のころには入っていなかった。幸之助は「今の政治家で先生といえる人は一人もいない」と言っていた。確かに当時、自民党の政治家や社会党の政治家を入れても政経塾の参考にはならなかっただろう。「自分達で考えて新しい政治を考えて欲しい」と言っていた。既存の政治から脱却を期待していた。

世界を見るということにも取り組んだ

質問(淺野昌宏): 松下政経塾では、国内の政治経済を中心に学んでいる話であったが、世界という眼でみると社会が安定することは民衆の平和に繋がる。アラブの世界では、独裁者がいないと社会の安定が保たれないと考えている。サダム・フセインも、ガダフィも、ムバラクも必要だったと思っている。そのようなことも塾では学んでいるのか。

回答: 私が学んだ頃は、まだ日本がここまでグローバル化されてなかったので、あまり国際的なことは勉強しなかった。私が塾頭になってから、アメリカ大使館とか、イギリス大使館などから色々な国の人を呼んだ。スリランカからインターンや講師を呼んだりもした。積極的に世界を見てくるように勧めた。

少子化は安全保障上のリスクがある

質問(佐竹右幾): 岡田先生の話に国家を意識させるという話があった。人口が少なくなると国家危機である。政経塾では、こういうテーマで議論しているのか。危機感が薄い。政治、経済と国語を教えたら完璧だ。

回答: 少子化は安全保障上もリスクがあることはよく理解していると思う。

幸之助は資本主義ではなく、社会民主主義か

質問(小平和一朗): 松下政経塾は幸之助さんがやったので、どちらかと言うと資本主義寄りなのか。経済を追及するので自由主義だったのか。

回答: 私は、松下幸之助は資本主義だと思っていない。完全な資本主義であれば、先ほど申し上げたように「社員の首を切れば良い」「儲からない工場は閉鎖すればよい」となる。幸之助は、全部の県に工場を作ると言った。財テクも、土地投機も嫌った。社会民主主義的な考えをお持ちであったように思う。

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