技術経営人財育成セミナー(第17回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

サービスの重要性

小坂 満隆(こさか みつたか)
(北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 教授)

日時 2015年10月23日(金) 17:00~19:00 (講演90分、討議30分)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

講演PDF(案内)(948KB)

製造業でサービス業との融合化が進んでいます。製造と販売を一体化することで、流通過程における無駄を省き、安価で消費者の意向を直接反映したビジネス・モデルをつくることで成功しています。あらゆる業種・業態でのビジネスが、サービスを無視できなくなりました。実際、西河技術経営塾の塾生の多くが、サービスに関連する事業を立ち上げて経営しています。
 一方、学術的な世界では、サービスに関する研究が進んでいます。(株)日立製作所の研究所でサービス・サイエンスなどの研究を手懸け、現在、北陸先端科学技術大学院大学の教授として活躍している小坂満隆教授を迎えて、『サービスの重要性』とのテーマでご講演をお願いしました。
 講演では、サービスという概念を学ぶとともに、日常の業務や新しいビジネスにどう応用するかに関して、最近のサービス理論や事例などをお聞きする予定です。サービス研究の第一人者からサービスに関する技術経営戦略論などをお聞きし、講師との質疑応答の中からも学ぼうと考えています。

【講師略歴】

小坂 満隆(こさか みつたか) 氏

1977年3月京都大学大学院工学研究科数理工学修士課程修了。84年3月京都大学工学博士取得。
77年4月(株)日立製作所システム開発研究所入所、2001年4月から同研究所所長、05年4月からIDソリューション事業部長、07年4月電機グループ長付歴任。
08年4月北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科 教授に就任。
11年4月~14年4月知識科学研究科長。サービスサイエンスの研究・教育を推進。
2015年4月サービス学会全国大会(金沢) 実行委員長。 

専門分野:サービスサイエンス、研究開発マネジメント、システム工学電気学会フェロー、計測自動制御学会フェロー、IEEEなどの会員。
工学博士。

北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科 教授 小坂 満隆

『サービスの重要性』

司会(小平和一朗専務理事):本日は、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の知識科学研究科教授の小坂満隆先生をお招きして『サービスの重要性』と言うテーマでご講演をお願いしている。小坂先生とは長いおつきあいをさせて頂いている。MOT振興協会の事務局長をやっていたころに「サービスイノベーション研究会」を2年半くらいやり、その時に副委員長をお願いしたことや、「サービスイノベーション」にいろいろ関心を持つ時期でもあったので、ご指導を頂いたり、大変お世話になった経緯がある。
JAISTには、MOTと言われる技術経営のコースがあり、いろんな意見交流をさせて、アドバイスを頂きながら今日に至っている。今日は「サービス」と言う事を学問的な見地で研究されて、「サービス学会」では中心的な先生で、「サービスをどう学問的に捉えているか」を勉強する目的で人財育成セミナーの講師をお願いした。

講師の小坂満隆氏

「私は、品川にある北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)東京サテライトで社会人教育を担当しており、
そこで『サービスイノベーション論』という科目を担当している。今日は小平さんからサービスの話を
するように依頼されて、社会人教育の講義ではいろんな事を話しているが、今日はその中から最近の
サービス科学のエッセンスをかいつまんで話そうと思う」と話す、講師の小坂満隆氏。

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講演概要

講演内容詳細 (897KB)

モノづくりからコトづくりに変遷したIBM

21世紀に入って、従来のサービス産業といわれる分野のサービスと、最近言われているサービスとは、色々な議論が質的に変わって来ている。これは、産業全体がサービス化するという流れからきている。IBMとか、GEだとかの産業のサービス化率は凄く高い。
IBMのビジネスを見たら分かるが、もともとIBMはコンピュータやディスクを作り、その後ソフトを作り、完全に製造業(モノづくり)の会社であった。コンピュータだけだとモノはあるけど、なかなか価値を生まない。そこで、コンピュータハードとソフトでデータ処理をして、いろいろな機能を提供できるようなシステムビジネスに進化した。
システムビジネスは、ハードウエア技術、ソフトウェア技術も必要だが、プランニングだとかデザインだとか、そういった色々なシステム技術が重要になった。さらに、グローバル化だとかインターネットだとか色々な環境が変わり、オフショアやアウトソーシングなど安い所でモノを作って、お客さんに適切な価格でソリューションを提供するというサービス提供者へと変遷し、サービス研究の重要性を認識した。
新しい技術や新しい製品が出てくると、それは新しい機能を提供するわけであり、必ずそれが顧客にとっての価値創造に結び付く。すなわち、技術が進展すると、必ずそれに伴ってサービス化が起こってくる。産業はそのように進展している。ビジネスの基本は何かというと、技術そのものではなくて、顧客に対してどういう価値を提供出来るかということで、それは正にサービス価値を創造するという事に他ならない。このように産業のサービス化は確実に進むことになる。

小坂氏

「技術が進展すると、必ずそれに伴ってサービス化が起こってくる。
ビジネスの基本は何かというと、技術そのものではなくて、顧客に
対してどういう価値を提供出来るかということで、それは正にサー
ビス価値を創造するという事に他ならない」と話す、講師の小坂氏。

サービス・サイエンスを研究する

数年前までは、中国も製造業とか農業が中心であったが、確実にサービスのGDP比率が上がってきている。それから、Lovelockが著述したサービスマーケティングの本の中に出ているが、各国のサービス化比率は、USAが79%、日本やヨーロッパの国々はだいたい70%超えていて、先進国と言うのは、サービスのGDP比率が非常に高いといえる。
こういう流れの中で「サービス・サイエンス」が言われ始めた。2004年だったと思うが、IBMのレポートがあって、GDPが70%を超えるサービスに対して、従来の技術開発を中心とする研究に比べ、サービスに対する研究開発比率が非常に低いと指摘した。新たな産業を創ったり、ビジネスを作ったり、収益に寄与しているサービスに対して、もっと研究を増やして、価値創造のメカニズムなどを研究すべきだというレポートを出した。それがService Science Engineering & Management (SSEM)と言われるもので、それ以来、世界的にサービスが注目され、サービス研究が重視されてきた。
これと並行するように、Service Dominate Logicという新しい考え方が発表された。これは、経済活動の基本原理は、顧客にとっての価値創造であるサービスだという主張である。
日本でも、サービスは大事だという事で、2012年にサービス学会ができた。これはサービス産業関連の人だけではなく、むしろ製造業に従事する人だとか、システム関係の人とかが中心になってやっている。

サービスの歴史

サービスには、色々なサービスがあって、従来型のホテル・旅館のサービスがある。
石川県に法師という1300年前に開湯したといわれる温泉があるが、そうした旅館サービスは昔から行われてきた。それもサービスである。それから製造業の保守もサービスである。これらの従来型のサービスは、1980年代にアメリカを中心にして、マーケティングの人達が、サービスマーケティングやサービスマネジメントとして、理論的な体系化を行った。
それから情報技術がでてきて、こういった従来型のサービスとはちょっとちがうサービスが出現した。コンサルテーションだとか、インターネット環境下でのサービスのビジネスモデルをどう作るかとかである。
最近では、オープンイノベーションだとか、オープンデータを使ってどうするかとか、そういうものに対して、価値共創という新しいサービスの考え方が出てきた。
こうした色々なサービスを全部考えて、サービスをどうとらえるかを考えなければいけないと思う。
こうしたサ-ビスの歴史とIT技術の関係を図1に示している。

サービス研究の歴史とIT技術

図1 サービス研究の歴史とIT技術

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加賀屋に学ぶサービス

私がJAISTに移った時点で、サービスは私の研究対象では無かった。情報やシステムの研究者だったので、サービスとは何かを現場の人に色々教えてもらう必要を感じた。幸いにも、石川県の和倉温泉に有名な温泉旅館の加賀屋があって、現在36年間ずっと、プロが選ぶホテル・旅館でNo.1である。
和倉温泉で加賀屋チェーンは3つある。まず、加賀屋は、一番おもてなしをやってくれて、高級感にあふれ、宿泊料も3つの中では最も高い。一方、最近できたのは「虹と海」と言って、主に若い女性を対象にしていると聞く。2つの旅館の顧客への対応は、全く違うおもてなしである。若い人は自分の部屋に入っていろいろおもてなしをされるよりは、お金が安くて部屋が綺麗で、自分たちの食べたいものを取って食べたい。それを満たすようなサービス形態になっている。加賀屋では、顧客のセグメンテーションをしっかり行い、顧客がどういう顧客で、何をやったら満足するかを常に考えている。 
今は相談役になっている加賀屋の小田元会長に「サービスって何か?どう思っているか?」と聞いてみた。
そうすると、「プロのサービスでお客様に満足をしていただき、それによって対価をいただく」というのがサービスであると教えられた。
この小田元会長の定義が、至極普遍的な定義であると考える。プロの技術を提供するプロでないとサービスビジネスは勝てない。製品が強いというのは正にそういうことなのだ。
それからお客様に満足して頂かないとダメだ。
満足しないとお金を払わない。
満足してもらって対価をいただくというのがポイントである。

サービスとは、ビジネスとか価値創造をやるための基本的考え方と捉える

加賀屋の小田元会長のサービスの定義は、図2のように書ける。
ここでは、顧客を真ん中にする。そして、顧客は提供されるサービスに対して必ず目的を持っている。
これに対して、プロの技術を提供してもらって目的を達成できると満足する。だからお金を払う。この仕組みが成り立っているかどうかを、色んなサービスで見てみる。こうした観点で、社会人学生とサービスを色々議論していると、会社の中にもこのサービスの仕組みはいっぱいあることがわかる。
それから、亡くなった亀岡先生が全く同じことを言っていて、サービスとは何かというと「人や組織がその目的を達成するために必要な活動を支援する行為」という定義をされている。これは、加賀屋の元会長の定義とほとんど同じである。
あとはService Dominant Logic(サービスドミナントロジック)を考えたVargoが、同じような定義をしている。彼は、サービスは「自分の持っているコアコンピタンスを使って、相手に対して便益を作り出す行為」だと言っている。ここでいうサービスは、従来のサービス業のサービスだけではなくて、ビジネスとか価値創造をやるための基本的考え方と捉える事ができる。これが私のサービスの定義である。

サービスの定義

図2 サービスの定義

機能価値と目的価値を結びつける

先程の考え方をもう少し価値的に考えるとどういう風にいえるか?
製品を提供したりサービスを提供したりする人は、提供するものが、良い機能・ファンクションだとか、性能の良いモノだとか、おもてなしが良いとかを考える。それは何かと言うと、機能価値である。
また、お客さんがどういう目的を持ってそのサービスを受けているかというのが目的価値である。
この目的価値を機能価値にマッピングする必要がある。それをうまく組み合わせるような事をやらないと、提供しているモノがお客さんの求めるモノと違ってくる。これでは、価値を生み出せない。
ITなどで良くあるが、作ったモノが業務に合わなくて上手く動かないとか、提供するモノが価値を生まないと言うことが、これからわかると思う。
従来のサービス業のサービスではなく、お客様に対して価値をどう作って行くかという視点でサービスを見ることが、実はすごく大事だと言いたい。サービス研究もそうした視点で考えなければいけない。
それから、サービス研究とIT技術は非常にリンクしている。旅館・ホテルや伝統的なサービスビジネスに対して、サービスマーケティングやサービスマネジメントがあったが、ここで基本的に使われている技術は、マーケティングとオペレーションズリサーチである。
なぜかと言うと、1980年代は、IT技術でオンラインシステムや企業情報システムで様々なデータが集まり出した。そのデータを分析するとお客さんの傾向だとか、どういうお客さんが、何処にいて、どういうタイミングでサービスを投入すると上手く行くとか、そういう分析がサービスマーケティングである。セブンイレブンのPOSを活用するのはこのタイプのサービス研究である。
ところが、イントラネットの企業情報システムと性質がちょっと違ってきていたのがインターネットである。インターネットは、サービスの視点では、24時間、365日、世界どこでもつながると言うのが決定的に違うのである。いま当たり前の様に使っている24時間、365日つながると言う事によって、サービスビジネスは大きな進展があったと言える。
また、サービス概念が情報技術の中にも入ってきた。SOA(Service Oriented Architecture)というアーキテクチャーがあるが、情報の技術の中にサービスという概念を入れたものである。
何かと言うとプログラムとプログラムがあって、お互いに必要な事を支援しあう、こういうサービス概念をこの中に入れてきた。これを実現するのがウェブサービスという技術である。
まとめると、新しいサービスビジネスモデルの出現や情報技術のサービス化で、一つの情報系のサービスが出てきたと言うのが、20世紀の本当に終わりから21世紀、1990年くらいから21世紀のはじめに起こってきたことだと思う。

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価値をお客様と一緒に作って行くという概念

今、我々が注目しているのは、第3世代のサービスで、これはオープンイノベーションや共創とか、サービスドミナントロジックに代表される新しいサービスの考え方で、価値はお客さんとサービス提供者と一緒に作って行くという概念である。
IoTで言われているように、モノがセンサーやインテリジェンスなどを持ち、それがインターネットでつながると、従来、自分の企業の目的で使っていたデータが色々な目的に対して応用出来る様になる。
例えば、自動車に色々なセンサーを積んで走る。そのセンサーのデータを全部集めると、実は自動車のビジネスだけではなくて、他のビジネスに対するデータのソースとして考えられるようになる。気象だとか、交通渋滞をどう避けるとかという様な使い方がこれからドンドン進んでいく可能性がある。

サービスドミナントロジックを説明する

サービスドミナントロジックという考え方をPRしたい。
2004年にVargoという米国の先生が基本的な考え方を出した。彼は、20世紀は「従来の様々なビジネスの経済の基本原理は、モノを中心にして動いていた」。これをGoods Dominant Logic(グッズドミナントロジック)で説明した。グッズというのは、モノである。「良いモノを作って、良いモノを売る」という原理で経済が回っていた。これは、アダムスミスの富国論から始まっていて、産業革命以降「良いモノを沢山作ることが富の源泉だ」と考えられていた。
ここでは、value determined by the producerのように、生産者がモノの価値を決めていた。例えば車の例では、クルマの中に自動車会社の持っている生産技術だとか、部品の技術だとか、エンジンの技術だとか、全てのノウハウ、技術を製品の中に入れて、車は自動車会社の技術や色々なノウハウを積載したビークルである。製造業は製品の価値を自分たちで決めるが、これを高めるために色々な技術開発を行う。顧客は何かと言うと、これは製品を受け取って使う人。それからインタラクションは何かと言うと、顧客と提供者の間のやり取りは、買った時に顧客が何を買ったよというトランザクションだけである。

価値はユーザーが使うことで、初めて形成される

グッズドミナントロジックでは、今起こっているいろいろな事が説明できない。例えば日本の非常に性能の良い製品を東南アジアに持って行ってもなかなか売れない。受け入れられるものは、現地の人たちが価値を感じる製品である。彼らに受け入れられるモノは、必ずしも、製品を作った人達が良いと思ったモノではない。サービスドミナントロジックというのは、価値論であるが、価値というのはユーザーが使う時に初めて形成されるという考え方である。
ユーザーがどういう風な使い方をするかによって、この価値が決まると言う事である。
だから顧客は、active participantであり、サービス価値を一緒に作っている人と捉える。
非常に単純化して説明すると、グッズドミナントロジックは、製品サービスの提供者が、この製品に提供者側の価値を全部集約して、こちら側に届けるというプッシュ型のビジネスの考え方である。
サービスドミナントロジックだと、実はお客さんがモノの価値を決めるのだ。そうすると生産する人達は何かと言うと、お客が決める価値に対して、こういう製品があるよ、こういうモノがあるよという提案は出来る。そして、一緒にいいものをつくろうということになる。

モノの性能ではなく、お客にとっての価値とは何か

サービスドミナントロジックの説明で以下の様なことをいっている。
There is no new service economyだとか、There are no producer and consumer. Goods is not a goods. Firm would not create a value. There is no B2C. There are no services.
これは常識から考えると皆「そうじゃない」と思うが、別の見方をすればこれが正しくとわかる。
価値をどう作るかという事を考えると、モノを提供するだけでは顧客が見えてこない。
モノを作る時に顧客の価値を考えて作ると言う事は、顧客の価値創造であるサービスを考えている事に他ならないのである。
いま起こっている経済現象に対して、モノを作って提供するという考え方を、実はお客さんにとっての価値創造という考え方にしましょうという事が、グッズドミナントロジックからサービスドミナントロジックへのシフトである。このことは、モノの性能ではなく、お客にとっての価値は何かという考え方から入ると良いということを示している。
Vargoは、「価値を提供する企業と、価値を受ける顧客と言うのは、一緒に価値を共創するのだ。その時に、提供側で使う様々なリソースと、お客さん側が考えている色々なリソースを、上手くインテグレートして価値を生み出すのがサービスにおける価値共創である」といっている。

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常に顧客を見て、サービスプロセスに対して、お客が喜ぶことを製品提供と同時に考えている

質問(平強顧問、Tazan International CEO) :アップルがなぜ製造をしないで、世界一の会社になったかと言うのは、この原理で行くと、客の必要な物をちゃんと提供していると言う事のか。

回答(小坂講師):アップルの話はこれに近い。顧客の総合価値をどう考えるか。図3が、亀岡先生が定義されている製品を受け取る総合価値がある。例えばアップルのiPod、あれは音楽の再生機である。これだけでは無くて、これに付随するサービスの価値と言うのがある。iTunesだとか、またインターネット経由で様々な音楽を提供する。製品やサービス提供は、結構どこの企業もやるのである。
ところが、ユーザーが自分自身で、例えば好きな音楽のコンパイルをやったりして、自分で付加する価値がある。これは、経験価値に基づく付加価値である。 
アップルの場合は、亀岡先生が定義されている総合価値の3つの要素がそろっている。iPodというSonyのWalkmanに相当する製品を出して、プラスしてiTunesとか、関連の音楽のサービスを出して、こうしたソフトを活用してダウンロードした音楽を自分の好きな順番にユーザーは自分の価値、経験価値を埋め込む訳である。スティーブ・ジョブスの伝記を読むと分るが、彼のやり方はパッケージングからして、こういうパッケーンジングをして、お客が開けた時からこういう喜びを持って、こういう風な驚きや価値を伝えられないだろうかと言うことを考えている。
それは何かと言うと、サービスのプロセスを色々書いて、そのプロセスに対して、こういう事をやればお客が喜ぶだろう。あるいは、そういったプラットホームが出来るよということを、製品を提供すると同時に考えている。なぜかと言うと、常に顧客を見ている。

顧客総合価値

図3 顧客総合価値

サービスの価値に関する考え方

サービスの価値をどう考えるか。同じサービスでも、サービスの価値は、受け取る人や時間や特性によって違う。ここでの議論は、先ほどのサービスドミナントロジックの価値創造プロセスとしてのサービスは少し置いておいて、複数形のServicesというこれまで使われている通常のサービスと考えて欲しい。
サービスの価値は、提供される人によってお年寄りか若い人か、提供される場によってビジネスか家庭サービスかで違う。それはなぜかと言うと、サービスの価値が適用される状況に大きく依存するからである。サービスが適用される状況を場という概念でとらえて、サービスとサービス場の関係性で価値を考えると、結構色々な事が説明できる。
これまでのサービス価値の話では、事前期待を上回るサービスがあると、顧客は価値を感じるというが、それだとITを上手く使ったりして、価値を定量的に議論する事にならない。お客さんの目的があって、これに対して適切なサービスが提供されると価値を持つ。これは「お客さんAに対して、求めていないサービスを提供しても何の価値も生まれません」と言う事である。この関係性をちゃんと認識する、あるいはIT技術でこの関係性が見つけられれば、適切な価値が生まれる、と言うのがここでの話である。
実は、物理にもこれに近い考え方として、電磁気や力学の「場の論理」があって、それは電磁場があって、ここに電荷があって、その関係性で力が生成される。電磁場が無ければ、いくら電荷が高くてもダメだ。実はこの二つの関係性を見つけるのが非常に大事である。
そして、サービスの価値創造にこの考え方が応用できる。

エスノグラフィーからこういうものが欲しい、ああいうものが欲しいが出てくる

提供するサービスが幾つかあった時に、対象とする顧客が、どういうような状況で、どういう時間で何を欲しがっているかということを、顧客を観察して明らかにできれば、それに対して適切なサービスを提供することが出来る。あるいはそういうサービスを作る事が出来る。
最近注目されているエスノグラフィーという方法論があって、これは文化人類学の方法論であるが、人間の色々な動きをじっと観測する。その観測から「こういうものが欲しいのではないか、ああいうものが欲しいのではないか」を発想する。
最近では、様々なサービスに関係する会社が、このエスノグラフィーを結構注目している。顧客のニーズや状況を把握する方法としては、アンケートもあるし、インタビューもある。最近では脳科学も応用する。提供されるサービスに対して、脳がどう反応するか、どういうものが欲しいのか、を計測する時に使えそうである。

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顧客データを取れば対象とするサービスを分析できる

トランザクションのデータが蓄積されていればそれを分析すれば、顧客の動向がわかる。顧客のサービス場をちゃんと認識できることになり、それに合わせて適切なサービスが提供できる。
典型的な例は、セブンイレブンのPOSシステム。顧客の履歴をいつ、どの年齢層が買ったかと言うのを全部入れて、店舗ごとに全部違って、そのデータを全部ここに集めてくる。それを分析し、どういう時間帯に、どういうお客さんが、どういうモノを欲しがっていることが分かれば、「サービス場」がわかる。分析結果に合わせて品ぞろえをして提供すれば、多品種少量で、適切なタイミングで適切なものを提供できる。
第1世代のマーケティング、あるいはIT技術を使って価値創造する時の基本的な考え方は、この様な「サービス場の同定」である。知識科学の視点から、これを、野中先生のSECIモデルに合わせてプロセス化してやることを考えた。これが我々が考えた図4に示すKIKIモデルである。SECIモデルと類似している。 

サービス価値創造に対するKIKIモデル

図4 サービス価値創造に対するKIKIモデル

サービスのためには、ヒトのサイエンスをしっかりやらなければいけない

まとめである。
大学でいろいろ新しい学部ができるのは、産業の進展と同期している。
大学の工学部が出来たのはそんなに歴史が古い訳では無くて、20世紀に入ってからである。
なぜかと言うと、自動車産業や電気・電子だとか、化学だとかの産業が興って、それで工学部で技術者の養成が始まった。ここは物理化学がベースである。20世紀の後半には、情報だとか、通信のビジネスが興って、コンピュータ科学、情報科学の学部ができた。これは数学と論理学との関係と同じである。現在は、知識産業、サービス産業が結構大きなウェイトを占めるようになってきた。
ここでは、価値をどうやって作って行くかが重要で、サービスビジネスをどうするかが課題であるが、工学や情報科学ではカバーできない。新たにサービス科学が必要である。サービス・サイエンスと言っているが、サービスをシステムとして捉えようとか、価値・共創のプロセスをモデルで捉えようとか、そういう動きが今起こりつつあるのである。すると、価値を体系づけて作り出すと言う事が凄く必要だ。
これをやるためには、ヒトのサイエンスをもっとしっかりやらなければいけない。それから、サービスをシステムで捉えて、Co-creationのメカニズム、collaborationのメカニズム、こういうものをしっかりやっていく必要があると思うし、それが「サービス学会」の一つの目的でもある。 

講義を聞く参加者

「ビッグデータを処理しながら、そのマーケットを広げて行くのか」との質問に、
「SUICAの例だが、基本的にはJRのデータであるが、データをJRが使うだけでは
無くて、色々な人達がサービスのリソースの情報として使えれば、情報に関連
するサービスの価値が、はるかにグレードの高い価値として生成される。これに
対して、新しいビジネスモデルの可能性がある」と答える講師の小坂氏。

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質疑応答

サービスは人に依存するので優秀な人間を付けてある期間一緒にやらせると暗黙知が身につく

意見(小泉賢貴(株)朝焼け代表取締役):販売業ではないので、今まであまりピンと来なかった所が明確になった。例えば、昔コンビニでアルバイトをしていた時に、タバコは売ってもコンビニにとっては利益が1円にもならない。販売の利益を促すためにそう言った形のサービスを作って行くのは、私の介護事業なので考えられるテーマかと感じた。

質問(鈴木義晴(株)スプラッシュ(おうちナビ)代表取締役):不動産仲介業に従事している。顧客サイドから見て物事を考えなければビジネスが成立しないという事は、4、5年痛感している。講演に出てきた第3世代のサービスという概念がある。ここの人の部分について、もう少し聞きたかった。サービスをやるのは人で、機械ではありえないので。この人をどの様に捉えているのか。

回答(小坂講師):サービスは人に依存する。例えばSEの人でも、同じ案件で同じ製品をお客さんに提案しても、Aと言う人が行くのと、Bという人が行くのでは、受注出来るか、出来ないが決まるという側面がある。それはまだ良く分からない。結局、人間の知識には、形式知と暗黙知があって。形式知はこういう事が出来るが、暗黙知には徒弟制度のような形で見せている。良く言われるのは、スーパーSEの人に優秀な人間を付けてある期間やらせると、そういう暗黙知の知識が身につくというのがある。
加賀屋でもお姉さんがいて、その人の周りに客室係がついて、ノウハウ・暗黙知を習得する。一概にこういう事を勉強して、こうやらないとダメであると言うだけでは、優秀なサービスを提供出来る人は育たないと思う。

日本には許認可制度があって、新規のイノベーションビジネスはなかなか認められない

質問(平):アメリカなどは、アイディアでビジネスをやらせる。例えばUberみたいなビジネスはアメリカではスッと出てくるが、日本では、白タクは規制されていて、それをやろうしても始めから閉ざされていることが多い。日本の製造業がおかしくなりつつあるので再生させなければいけないと思うが、どうか。

回答(小坂講師):今回の講演ではサービスの話をやっているが、イノベーションだとか、新規事業の話では、イノベーションのジレンマだとか色々な事が言われている。そこで言われていることは、特に大きな企業とか、ある分野で成功した企業というのは、その成功した人達が組織の上に行く。そうすると、その成功体験で物事を判断するので、それが弊害になっている可能性がある。日本の企業もそうした傾向があるのではないか?サービス論と言うよりは、イノベーションに対する会社の取り組みをもっと議論しないといけないと思う。サービスの問題では無いように思う。

おもてなしは、このサービスを提供する側のプロセスである

質問(上川晋一郎DSP株式会社代表取締役):今日は色々と勉強になった。一番勉強になったのが、人や組織がその目的を達成するために必要な活動を支援する行為の部分で、今までサービスに対して全く違った概念、お金を得るためとか、そう言う風に考えていたので、目的を持ってその達成を支援すると言うのが、非常に勉強になった。一つ質問ですが、先生から見て「サービス」と「ホスピタリティ」の違いはどうか。

回答(小坂講師):ホスピタリティはおもてなしの事かと思う。私は加賀屋さんから、サービスを教えて貰った。私の感覚では、おもてなしは、このサービスを提供する側のプロセスである。それに満足を感じて貰う事によって、その満足に対してお金を払ってもらう。だからまずお金ありきでは無くて、やはりお客さんにいかに満足してもらうかという点で、ホスピタリティだとか、おもてなしをやらないと、サービスに繋がらない。日本には昔から「損して得取れ」とか言われている。意外と日本の商習慣の中には、サービス思考の事がいっぱいあると思う。それをもっと前に出す形で、自分のビジネスの中に取り込んでそれで上手く回していく仕組みを考えると良い。

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お客に対してどういう価値を提供出来るかを出発点にする

質問(石塚利博(株)日立ハイテクノロジーズ知的財産部主管技師):MRIの開発に従事していた。 25年前に既にGEのMRIは、ジェットエンジンと同じように、インターネットを使ってオンラインでつながっていた。かたや日本企業は、設備もお金も非常に高かったから、ネットを使ったメンテナンス契約しかできなくて、ほとんど赤字同然だった。ところがGEは高額なメンテナンス契約で儲けだった。それは、当時からGEはオンラインでシステムダウンしない様にしていた。病院設備なので回収が問題になる。新しい装置であるからオペミスもいっぱいある。どう言う画像を、どういうシーケンスで撮ったら良いかと言うのを、全部オンラインで画像を見ながらサービス対応をしていた。装置に対してのサービスと単体のソリューション・サービスを混ぜると話がグチャグチャになる。なぜサービスが儲かるかは、モノを売った後の畑で、独占排他のサービスビジネスが出来るからだ。それが出来なかったら意味がない。
日立建機よりずっと先にやっていたコマツのサービスビジネスを調べたことがある。コマツは、特許を200件以上取っている。そう言うのも含めてビジネスを押さえないと事業として成功しない。

司会(小平):この事務所にあるコピー機も、故障前に交換にやって来る。基本的に無停止運転、予防保全の考え方である。本日の話にあった、自動化システムでサービスの質を向上しようと言うことか。

回答(小坂講師):基本は、お客に対してどういう価値を提供出来るかという所を出発点に考えないとダメだ。

質問(石塚):それを検証できるのは事業でしかない。学問ではない。事業で検証し、成功しなければ、それは「失敗であって間違いだった」と私は思う。

回答(小坂講師):やはり、セグメントのお客さん毎に求めるものは違っていると思うので、それは一般論ではない。「モデル」だとか、「ビジネスをどうするか」とか、「アドオンタイプのビジネスにするか」といった事は、セグメントによって違っていないと思う。

回答する講師の小坂氏

「モノを売った後の畑で、独占排他のサービスビジネスが出来るからだ。それが出
来なかったら意味がない」と石塚氏から意見に、「基本は、お客に対してどういう
価値を提供出来るかという所を出発点に考えないとダメだ」と講師の小坂氏が回答。

新規事業に取り組むと既存の事業を壊しかねないといったジレンマを抱える 

意見(山中隆俊富士通研究所研究員):久しぶりに新しい概念を聞けて勉強になった。富士通で働いている。弊社もソリューション・サービスに移っている。研究所にいるので、新しいサービスを、提供価値を考える上で最近思っているのが、日本でやろうとすると、社会制度や、例えばトヨタの自動運転などをやっていると、社会受容性といか、どうやって利用者・生活者に受け入れられるかといったジレンマがある。こういうサービスをやりたいのだが、制約があって、それとのバランスである。先ほどのイノベーションのジレンマではないが、既存の事業を壊しかねないといった事を、自分自身のジレンマとして抱えている。

質問(大江修造元理科大教授、日本開発工学会会長):私は日本開発工学会の者で、専門は化学工学で、サービスの事が全く分からないが、サービスの事も結構研究されているのだなと、大変興味を持った。先生の所属されている知識科学研究科は、コンピュータサイエンスとか、AIとかに関係している様に思うが、そういう所の現状を教えて頂きたい。このサービスについてのAI的な取り組みが、どの様になされているのか。一種のエキスパートシステムかなとも思う。

回答(小坂講師):インターネットが出て来て、自動サービスが結構出てくるようになっている。そういった所に人工知能的な技術が使われる。知識科学自身は、人間の知識活動を科学する学問である。3つのアプローチがあって、一つ目がIT系の研究である。これは今言われたように、AIだとか、データマイニングみたいに、データから知識を抽出したり、コンピュータを使って人間の知識活動を研究しようという人達である。二つ目はシステム科学的なアプローチがあって、これは元々システム科学で問題を解決する時に、システム的どこを解決していけば良いかと言う様な、System's approachというのがある。このアプローチで今までの課題を解決していく、解決のための知識を生み出す。3つ目が、Knowledge management。これは野中先生が元々やられていて、人間の「暗黙知」「形式知」の相互作用によって、企業の中の知識創造メカニズムを解明して行こうというものである。これらの3つが知識科学研究科の基本的な研究になる。サービスは、どれにも関連する。サービスシステム、それからITを使って色々なサービスをやるとか、おもてなしだとか、人が絡んでどういうサービス価値を出すかとかね。そういう意味では、サービス科学と知識科学の整合性は凄くある。

感覚的に満足している部分を気付く作業がサービス向上のヒントになる

意見(小泉):70%もサービスに絡んでいる仕事があると言う事は、我々は全然認識していなかったが、実際に受けているサービスは沢山あるのだと感じた。認識はしないが、それから凄く満足を受けている事は凄く沢山あると感じた。それで、私は商売をしている人間であるので、今後生活していく中で、気づかなかった感覚的に満足している部分と言うのを見つけて行く作業が、一種のサービス向上のヒントになるのかと感じた。

回答(小坂講師):いい気付きである。

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