一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第24回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

デジタル化による産業構造転換

大川 真史(おおかわ まさし)

日時 2018年5月28日(月)18:00~20:00 (講演60分、討議30分他)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

講演PDF(案内)(980KB)

脱工業化・サービス化する社会で、IoTやAI等スマート化による、第四次産業革命が起きています。その結果、産業構造や就労構造が劇的に変化し始めています。工業化社会に過剰適合した産業・企業は、これまでに培われた全てのやり方や仕組みを、根本的に見直す必要に迫られています。
本講演では、まずスマート化による産業構造変化と、その環境下でのイノベーションについて報告します。そして、これからの時代に必要となる人材像と育成方法について講演をしていただき、講師との質疑応答の中から技術経営を学ぼうと考えています。

【講師略歴】

大川 真史(おおかわ まさし) 氏

<略歴>

2000年 (株)東洋情報システム(現TIS(株))に入社
BPRやERPのコンサルティングを担当

2006年 三菱総合研究所に入社
大手製造業を対象にサービスイノベーション、サービスマネジメント、
サプライチェーンマネジメント等のコンサルティングを担当

2018年 イングアーク1st(株)入社

ウイングアーク1st(株)
       大川 真史(おおかわ まさし)

『デジタル化による産業構造転換』

司会(小平和一朗専務理事):今日は、『デジタル化による産業構造転換』というタイトルで、大川真史さんにご講演をお願いした。大川さんは、三菱総研にいたときに、今注目のIoT関係の調査を行っていて、最近の中国を含め、日本のIT系のことで、色々と問題意識をつけたく講演をお願いした。

大川真史

「欲しいサービスは自分でつくる」という時代である。今までITツールとかであれば、いろいろなベン
ダーなどが分業で行っていて、分業であればあるほど、現場では使いにくい、あるいは使えないという
ものが出来てしまっている。ようやくユーザが自分で作る世界が来たと講演する。お茶の水神保町で薬
局を出している山口さんの事例を使って説明。ユーザが作れるというのは、こういうことかと納得した。
写真は、講演する大川真史講師。

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講演概要

講演内容詳細 (7.12MB)

講師(大川):デジタル化で、産業構造がどう変わって行くか。デジタル化による産業革命下でのイノベーションやデジタル化の時代のために必要な人材像などを話す。

サービス化する社会とデジタル技術革新
日本では戦後70年近くの間、明治の産業革命以来では100年以上に亘って工業化社会を進んで来た。工業化社会では、イノベーションが技術革新のことであり、イノベーションの源泉が技術そのもの、あるいはファンクションであった。これから起こるデジタルネットワークの上にAIとIoTが載ってくる社会は、非工業化社会である。それはまさにサービス化社会だと思っている。
そこで起こるイノベーションの源泉は、人がそれを価値だと認識するものだと思っている。何かを体験したそのものがイノベーションであって、提供者と供給者の閾値が曖昧になってくるところが、イノベーションの源泉だ。源泉が起こる場も実物、実体からではなく、仮想デジタルネットワーク上が中心に移る。
現在は、工業化社会を前提とした社会システムになっているが、これから先はサービス化すると、産業構造とか就業構造が今とは違った形になる。

図1

図1 サービス化する社会とデジタル技術革新

自動車関連産業が生み出す価値の変化
現在の乗用車は、5人乗りのところに2人しか乗っていないというように積載率が低く、車間距離も必要なので道路に対する人の移動効率は良くない。自動運転バスやパーソナルモビリティーのようなものになっていったときに、現在の自動車よりはるかに効率的に、効果的に移動ができるようになってくる。
自動走行できるようになると、乗用車をつかって移動するときに、何分何秒後に目的地に着くというレベルで行けるし、時速30kmで走行しても、現在の50kmや60kmよりも早く到着することが出来るようになる。今の乗用車よりも、圧倒的に早く移動できるような交通サービス、交通システム自体が出来る。簡単に移動するという単純に自動車に求めているメインの価値は、どこのメーカで、どのような車種かは全く関係なくなる。
そうなったときに現在の自動車メーカを含む製造業は、どこまでを自分達の守備範囲とするかを考えなければならない時期に来ている。現在のGoogle Mapのようなものを使って移動するときに、サービスを提供している企業にお金や時間を費やすことの方が、車そのものにお金を出すより価値を感じるようになる。

図2

図2 自動車を例にしたデジタルサービス化

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UXを提供できる人が、競争に勝つ
スマホのようなものを使って車を呼び移動するという、ユーザ体験(UX:User Experience)そのものが重要になって来る。ユーザに適切な体験を提供できる人が、競争に勝って行く。機能充足などでは競争優位には勝てないということが概ね合意されつつある。
UXという、今までの考えでは分からないことが競争優位になる。知識、資産、資本などを工業社会では内部集積させていった方が有利であったが、これからは外部に分散させて、自分達が持っているリソースを多く使う人を増やして行くこと、仲間を増やして行く方が間違いなくUXを握っていける戦略になる。オープンイノベーションと言われる。

サービス化社会のマジョリティ
スマートフォンが出る前は、自分の耳で聞き、目で見たりしたものを頭の中に記憶し、別の人に後から口で伝えることが、コミュニケーションのやり方だった。映像もまたリアルタイム性はなかった。スマートフォンが出て来て、目の前に起こった喜怒哀楽に、知識や知ったことなどすべて瞬間的に動画に撮ったりして、ソーシャルメディア上でシェアをしたりすることで、リアルタイムでどんな遠くの人であろうとも、瞬時に喜怒哀楽や知識等を共有することができるようになった。

デジタル化によって産業構造が変わるときに、初めからスマートフォンみたいなものを使って自分の体験を、全部デジタルに置き換えて行くことが当たり前だと思っている世代の人たちの方が、はるかに筋の良いサービスを作れるということが起きていて、そして動き出そうとしている。年代としては20歳代前半より下の人たちは、それより上の世代が作っているサービスのコンセプトとは、見えている世界が違っているように思える。

4,5年前、タイの工場に行ったときに、タイの30歳前後のラインマネージャが、ホウレンソウ(報連相)は、LINEを使って行っていて、パソコンベースIoTへの拒絶感が強く勝負にならない状況であった。日本は何も変わっていないが、彼らは進化している。

図3

図3 サービス化社会のマジョリティ=スマホネイティブ

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UXサービス開発の基本

ユーザから駄目と言われることをやらなければ、良いサービスは作れない
高性能、高品質、多機能のものを作るのではなく、ユーザが直接的に受け入れ易いものを作るという事を前提としたときの開発はどうするか。開発すべきサービスとは、ユーザが使い続けてくれるものである。ユーザが使い続けるのは、高性能、多機能のものではなく、自然であったり無意識であったりするようなものになる。
その時に良いサービスとは、現場でオペレーションをやっているユーザにしか作ることができず、供給者の設計とかをやっている人は決められない。ユーザはそれを教えてくれないので、ユーザと一緒にトライアルをし、失敗と修正を繰り返し、その回数が多いほど良いサービスになるので、1回でも多く、そして1日でも早くユーザから駄目と言われることをやらなければ、良いサービスは作れない。
今までのようなアイディアとその市場性を検討して開発を行うというウオータフォールのような開発ではなく、いわゆるアジャイルという方法を用いる。プロトタイプを作って、ユーザのところに持って行くということを繰り返す。
日本では、ユーザが使い易いかどうかを検討する人材を育てて来なかったので、ほとんどの会社ではそのような人材がいない。デジタルサービスであれば、20歳代より下の人でなければ、この話はできない、評価ができない。

図4

図4 サービス開発の基本

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欲しいサービスは自分でつくる
今までITツールとかであれば、いろいろなベンダーなどが分業で行っていて、分業であればあるほど、現場では使いにくい、あるは使えないというものが出来てくるということを、この20年位経験して来た。ようやくユーザが自分で作る世界が来た。その一つが、お茶の水神保町で薬局を出している山口さんの例である。
山口さんは、35歳の時に、はじめてプログラムを知った人である。それまでは普通の薬剤師であった。AIを使うフレームワークであるパイソン(Python)を勉強されて、顧客がいないときで、手が空いたときに構文の修正をしながら、薬局を運営するという未来感がある人である。この人が薬の在庫管理をする仕組みを作っていて、レセプトを行っているので、薬の受払はデジタルデータになっている。それを何万点もある薬の中から、薬局の棚に置ける100個位の薬をどれにするかというのを、AIを使って上位100個を自分で計算して、頻繁に出る薬を4隅におき、よく出る薬の組合せを放射線状に並べて行くと、1回手を伸ばすことで2個3個と連続して取れるということで、どれが取り易い棚の配置にするかを自分で試している。顧客が来るたびに試行錯誤が出来るので、この人はプログラムを行いながら、最適な薬の配置を行うという仕組みを自分で作った。それを同業者にそのシステムを安い値段で売るということもやっている。自分が単純作業を減らしたいというモチベーションが高い人であるが、その結果既存の薬局システムを作っている企業をディスラプトし始めていて、明らかにIT会社が作るより、この人が作るシステムの方が使いやすい。
次にやりだしたのは、ファーマシストオンラインで、声でやりとりするGoogleHomeと連動させるようにした。薬の棚卸で実棚の時に、箱から取り出したりして、両手が塞がっている時に、声でシステムとのやりとりができるため効率が良いということである。
更に、自分のフェースブックページに動画を上げて、同業者から"いいね"とかこのような機能が欲しいということがあると、翌日にはプロトタイプを作る位のスピードでやっている。それを見ると、ユーザでない人が作るという世界が想像できなくなった。ユーザが作れるというのはこういうことかと納得した。
次に作ったのが、薬の長期滞留在庫(不動在庫)の処理で、薬は薬品メーカに戻せなく買取りなので、何万種類もあるアイテムが死蔵在庫になる。薬局の課題として、不動在庫のスペースも勿体ないし、廃却コストもかかるということで、不動在庫品をファーマシストオンラインユーザー同士で共有するという不動在庫シェアリングサービス(Med Share)を始めた。さらに驚くことに、Med Shareで使う不動在庫リストは、プリンターではなく、ファックスを使って紙で出すようにした。これほどIT開発力があればリストの出力をパソコンやスマホの画面に出したり、音声出力したりやりたくなるが、薬剤師のユーザー体験(UX)としては紙とペンで確認するのが最適という事だ。さらにプリンター出力となると、家庭用プリンターが多い薬局では出力したい度に電源入力し起動を待たなければならない。それよりも自店舗充てにファックスを送り出力する方が手間が少ないという結論となったという。これを見て同業者もファックス出力がいいと言っている。
製造業でも、いろいろな人がいろいろなツールを作っている。

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デジタルサービス開発の新しいアプローチ
自分でつくるためのツールとかデバイスが進化しているということが起きている。半年経つと、ほとんど中国ではあるが、良いフリーソフトやフリーのフレームワークが世界中で出て来る。その中でも多くはないが日本人でもデバイスを自作する若者が出てきている。
例えば、Nefry(ネフリー)という、Milkcocoaやmythings、IFTTTなどのインターネットのサービスとハードウエアを簡単に接続できるIoT用デバイスを当時20歳の愛知県在住の学生が作ったものもある。

これから必要な人材
現実的に、いまからどのような人材が必要かというということ話す。
何か新しいものを作る時にどういうもが必要かというと、基本的にユーザが真ん中にいて、ディレクターとデザイナーとエンジニアがいる。この中で一番大事だと思うのは、ユーザ体験をデザインするデザイナー(UXデザイナー)というのが重要であると実感している。

UXデザイナーとは

課題は何かということをひたすら探索していくようなことが必要
UXデザイナーとは、ユーザ体験をデザインするためのデザインである。
ビジネスモデルとかエコシステムとかをデザインすることまで本来ならデザインと言う。UXデザインが出来る人とはどのような人かというと、エンジニアとは真逆の人と私は理解している。
エンジニアは、技術中心で、課題がはっきりしていて、明確な課題に対してどうやって解決するかという解決策を探索するという思考回路である。
デザイナーは、人や社会の課題認識の追求をしていて、課題を探索していくことをやる。
課題自体をユーザと一緒に探索していくと、課題がはっきりした瞬間に、解決策が見えているような状態である。課題を探索するというのは、機能充足とか性能オリエンテッドみたいなものと全く逆の話をどう作るかのということで、とにかく課題は何かということをひたすら探索していくようなことが必要である。このような人材が、今の日本にはいないのが問題である。

図5

図5 UXデザイナーとは

おわりに
私は、IoTコミュニティ(https://iotlt.connpass.com/)に参加し、一部を主催している。6万7千人位の会員があり、首都圏だけで6千人位いる。6割から7割が30歳代以下の人で、自分で何かを作っている人達である。ITとか製造部の企画部門の人で、普段は自分でものつくりをやらせてもらえない人達が、憂さ晴らしに自分達の作ったものを発表に来る。それは仕事で使えるようなものもある。自分のお金を使い作って、この場で発表して良かったと喜んでいる20歳代の人が多い。このようなところに来る人が増えことで、世の中が変わって来ると思っている。

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質疑応答

質問(前田評議員):スマホという世代以前の世代も学びもみほぐしをすることで、若い世代のような発想になるのか。

回答(大川真史講師):そのような発想になると思う。例えば、80歳のおばあちゃんがアプリを作ってグーグルに表彰された例がある。それは雛段飾りのどこに何を配置するかというゲームアプリである。あの方は、スマホを使い自分が勝てるゲームソフトを自分で作るというモチベーションがあって、技術的には初歩的なものしか使っていなくても自分でゲームアプリを作ることができた。
同じように、昔から効率化みたいなことをやっている工場の現場でやっている70歳のマイスターのような人に、この話をするとすぐに何かを作ってくる。固定観念がなく、デジタルでも治工具が作れるという感覚で作ってくる。何人かの人を見ていて、出来ないというのは意識の問題ではないかと思う。明らかに昔のことを知らない人や、それしか知らない人の方が何の疑問も持たずに取り組み易い。
仕事でLINEを使って報連相をやるなんて、まかりならんという感覚がある以上、スマホをベースにした業務アプリを作れるわけがない。

質問(佐藤一弘東洋製罐綜合研究所所長):“学びほぐし”、具体的にワークショップはどのようなことを行っているのか。

回答(大川講師):日本みらいキャピタルの先生を呼ばれた方がよいと思う。私は明治大学のサービス創新研究所にいる。そこは、イノベーションのためのワークショップの手法を開発する研究所である。例えばワールドカフェというやり方であったり、いくつか有名なファシリテーターの能力によって思考回路を解放して行ったり、他社の知識を上手く取り入れながら、自分の思考回路を解放して行くという手法を科学的に取り組んでいる人たちがいる。ファシリテーションとかワークショップのやり方そのものを研究している人もいる。

回答(大川講師):1回では無理で何回かやっていく必要がある。

質問(淺野昌弘理事):昔のことを知らない方がやり易いとのことだが、インドとかアフリカのルワンダようにITに力を入れている国では、多く出て来るのではないかと思う。一方アメリカではトランプが貿易関税云々と言い、古い体制に戻そうとしているが、アメリカは追いつけなくなる。

回答(大川講師):そう思っている。アメリカは、きわめてまずいと思う。
先日中国の深圳に行って来た。シリコンバレーは全く勝負になっていない。すべてが信じられないイノベーションの世界である。こういう人達から新しい技術、新しいサービスが生まれて来るというのを見た。シリコンバレーを凌ぐと思われる。

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司会(小平):どういう基本的な違いがあるのか。

回答(大川講師):深圳というのは東京を同じくらいの面積と人口である。元々深圳というのは、ハイテク産業が集積されていたが、ここに住んでいる人達は、この2年半で劇的にこの世界が変わったという。大ロットで製造するようなところが深圳には無くなって、やっと深圳は、イノベーションセンターになったという言い方をしている。
世界の特許の1/4は深圳で取られていて、南山というとことにアメリカの会社が投資をしている。そこが超巨大な実装センターのようになっている。
1千万人ほど人がいるが、平均年齢が30歳位で40歳を過ぎると老人扱いで60歳以上が2%ほどしかいない。中国のあらゆるところからイノベーターの若い人が来る。毎日千社の会社が出来て、そして毎日数万というサービスが出来ては消える。千社の会社がつぶれて行くので、ほぼ失敗することを前提で、皆何かを毎日やっているという規模である。政府もとりあえず100万円は領収書なしで出し、世界のTop100の大学院を出た大学院生は、ここに住民票を置くだけで、なにもしなくても5千万円の資金を貰える。

質問(平 強顧問):規模的には分かったが、質的にはどうなのか。

回答(大川講師):ここはまだ2年半しか経っていないので、そのうち出て来ると思う。その予感しかしない。例えば、ドローンの世界のデファクトであるDJIという会社は、この深圳から出て来ていて、アメリカも国防レベルで採用されている。

司会(小平):レベル4の無人の自動運転の話が先ほどあったが、公道で実証しているというのは強いですね。

回答(大川講師):技術的には、日本の方がはるかに安全に確実に出来ている。しかし、深圳ではうるさく言う人がいない。

質問(持田昇一):日経にデジタルツインズの話が出ていたが、昔からデジタルとリアルなもののフィードバックはあったと思うが、最近また注目されているのか。

回答(大川講師):リアルタイムで一体化して、デジタルツインズという発想自体が古いという気がする。デジタルネットワークの話か、リアルかという区分はあまり意味が無くなってきていると思う。ボットなどが良い例である。スマホの相手が人か機械かというのはどちらでも良いということである。

質問(西河洋一理事長):薬屋の話になると、逆に技術中心なのですね。自分の困ったものをデザインして皆で動かすということをやっている。

回答(大川講師):あの人も技術は持っている。製造業は不要ではないというのと同じで、当然エンジニアは必要である。個別の技術者は必要ではあるが、それを生かすためのデザイナーも必要である。しかし、今はそれがいないから問題であり、あの薬剤師は自分でデザインもするし、技術もやるということが出来る人である。

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質問(西河理事長):UXデザイナーの育成とはどのように行うのか。

回答(大川講師):何かやる時には、オープンで客まで混じったようなプロジェクトが必要になる。現場のある人が参加しないと新しいプロジェクトは起こせないが、デザイナーがいないと、エンジニアはユーザの言っていることをありのままの姿を受け入れない。そこを受け入れさせるための媒体みたいなものが、エンジニアアシリティーなので、エンジニアのこととか、エンジニアの文脈を知らなければ知らないほど、ユーザの言っているありのままのことを受け入れられる。育てるというより、そういう環境にいる人を入れると自然にできるようになるというのが私の感覚に近い。
エンジニアのように毎日、ものを作っている人は、自己否定になるので難しいと思う。

質問(持田):エンジニアは自分の時間を売っているので、開発が簡単であれば、自分で開発をすればそれが一番ユーザUXに近いと思うが、エンジニアはいやがるか。それからスマホで開発をするということも、設計書ありきみたいなことでないと、ニーズを聞きながら開発というのはできないのか。

回答(大川講師):日本のSIerは非常にまずい状況である。プライムSIerで働いている20代の若手は、毎日エクセブで進捗会議をやっている人がいっぱいいるが、私のコミュニティに来ている。早くそういう人が事業会社の事業部の方に入っていくような、人材のシフトをしていかないと、こういう世界に早く来られないにも関わらず、SIerはそれを飼殺している状態なので多くの人が問題だと認識している。

質問(土山真由美):アジャイルでの開発を、2010年位から自社でやり出したら、お前は何をやっているのだと怒られた。既存の事業の人たちが皆、こんなやり方はおかしいと言う。

回答(大川講師):私も、その恨みつらみで出来上がっている人間なので、よく分る。クラウドファンディングがこれだけあったら、自分で起業することができない理由はないといつも学生には言う。大企業で働く理由は、チャネルがあるとか、リソースの集積があることしかなく、ソーシャルメディアがこれだけ発達してくれば、大企業にいる理由がなくなるので、若い人が自分でやりたいのなら自分でやった方が良いと思う。

質問(平顧問):深圳の若い人達が、新しいことにチャレンジしたり、ものを作ったりするときの資金はどこから出て来るのか。

回答(大川講師):シリコンバレーあたりの大企業である。日本はファンドを出していない。日本企業の進出は、ほぼゼロである。アップルやクアルコムなどを含めた米国の西海岸文化を許容しているような人たちが、コーポレートファンドを作ってお金を入れている。日本のある商社が投資をしようとしたのだが、社内で稟議を回している間の2週間で投資しようとした会社がつぶれて、稟議が下りたときはその会社が無くなってしまい、適当な会社を選んだとか、嘘をつくなと怒られたそうである。日本の企業は、スピードが早くてついていけない。

司会(小平):米国から金が入るというのは、中国という本土の中に金が落ちているというように見ていいのか。

回答(大川講師):はっきり聞いてはいないが、当局者はニュアンス的には、ここは中国ではないと思ってやっている。中国人に聞いても、深圳は中国ではないという言い方をする。22世紀の世界が先にきているだけで、中国方面に何か恩恵があるか言えば特にない。人の出入りもチェックしている。お金も出せないし、本土との人の出入りもかなり規制している。地理的に言うと、深圳は香港に近く、香港も出入りを規制しているのと同じように深圳も規制していて、他の地域とは切り離してやっている。そのなかで、どういうサービスを作るのかというのは、共産党は見ていないと思う。

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