一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第9回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

CIOが企業経営に果たす役割

- IT・ビジネスのプロフェッショナルとして -

川口 弘行(かわぐち・ひろゆき) 博士(工学)
(サイバー大学IT総合学部専任准教授・港区情報政策監(CIO補佐官))

日時 2014年2月4日(火) 17:50~19:50 (講演60分、討議30分他)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

パンフレット(75KB)

「CIO」はChief Information Officer(最高情報責任者)の略語である。一般的にはCEO(最高経営責任者)の次席に位置し、主に企業の経営戦略を情報技術や情報化投資の面で実現させるなど、情報や情報技術(IT)に関する業務を所管する。CIOには、情報科学、情報工学だけでなく、経営や組織運営に関する知識や経験が必須である。
また、COO(最高執行責任者)やCFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)などと同様に、経営者層や他のメンバーとのコミュニケーション能力やリーダーシップなどのスキルも要求される。
すなわち、IT・ビジネスの両方を極めなければ務めることができない職務といえよう。現在、日本企業においてCIOが活躍する場面は限定的であるものの、企業経営において情報技術をいかに活用するべきかは、どの企業においても共通する喫緊の課題である。
今回は、CIOが企業経営に果たす役割をCIOが担当する職域、情報技術を経営に活かす手法などと共に示し、参加者とともにあるべき姿を考えたい。

【講師略歴】

川口 弘行(カワグチ・ヒロユキ)氏

芝浦工業大学専門職大学院工学マネジメント研究科修了。技術経営修士(専門職)。
同大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。

1996年 行政書士登録。
2004年 日本行政書士会連合会高度情報通信社会対策本部WG委員。

会津大学短期大学部非常勤講師、東京都立中央・城北職業能力開発センター
講師を経て、

2009年 高知県CIO補佐官として地方自治体の情報政策に携わる。
2012年 サイバー大学IT総合学部専任教員(現職)。
2013年 港区情報政策監(CIO補佐官)(現職)、

経済産業省CIO補佐官(特許庁担当)(現職)。

ページの先頭へ戻る

サイバー大学IT総合学部専任准教授・港区情報政策監(CIO補佐官) 川口 弘行

『CIOが企業経営に果たす役割
   -IT・ビジネスのプロフェッショナルとして-』

実践的な経験や知見を聞くことができた

経営資源というと、人、モノ、金、情報、時間の5つを言う。日本は「情報」という経営資源の利用で大きな遅れを取っている。CEO、COO、CTO、CFOは、日本の経営の中でもその役割が理解され始めているが、CIO(Chief Information Officer)もCEOの次席に位置し企業の経営戦略を情報技術や情報化投資の面で実現させるなど、情報や情報技術(IT)に関する業務を所管する役割があるにも関わらず、その役割はあまり理解されていない。
今回の技術経営人財育成セミナーでは「CIOが企業経営に果たす役割」と題して行政のCIO補佐官として勤務をしながら、その経験を生かしてサイバー大学の准教授として学生の指導にあたっている川口弘行氏を迎え開催した。川口氏は「現在、日本企業においてCIOが活躍する場面は限定的であるものの、企業経営において情報技術をいかに活用するべきかは、どの企業においても共通する喫緊の課題である」と言う。サイバー大学でバーチャルな教育を手掛けるとともに港区や経済産業省のCIO補佐官の仕事をしている。実践的な経験や知見を聞くことができた。

セミナー写真

「 デザインを経営のツールに加えると経営のデシジョンが早くなり、
ベクトルを合わせるのに具合が良い」と語る吉久保誠一講師。

講演概要

講演内容詳細 (973KB)

サイバー大学の准教授であり、2カ所の行政機関でCIO補佐官をしている

今日お話しする内容のタイトルは『CIOが企業経営に果たす役割』とあるが、そもそもCIOとは何かなど、皆さんが知らない話を準備してきたつもりである。CIOの"I"は情報(Information)であるため、企業における情報や情報システムの位置づけについても話をしたい。
また、今回のセミナーは技術経営ということで、技術経営というとイノベーションというキーワードは外せないと思うので、CIOとイノベーションの関わり合いについてもお話したい。現在は2カ所の行政機関のCIO補佐官に着任しており、今日は芝公園にある港区役所で仕事をしていた。また、実はこちらが本務なのだが、サイバー大学という少し変わった大学の教員もしている。

■ サイバー大学の紹介

サイバー大学は、一度も教員と対面をすることなく卒業できるオンライン大学である

サイバー大学は福岡市構造改革特区事業に基づき設立された「完全インターネット大学(通信制)」である。全てインターネットの上で講義をする。一度も教員と対面をすることなく卒業することもできる。2006年に文部科学省の大学設置認可を受け、卒業すると国内の他大学と同様に学士号を得ることができる。
構造改革特区で認められたものが二つある。一つが「全ての講義のインターネット上での開講」である。従来の大学はスクーリングと呼ばれる対面授業という制約があるのを、特区事業で規制を緩和してもらった。
もう一つは「株式会社大学」である。通常の私立大学は学校法人による運営だが、サイバー大学はソフトバンク100%出資の株式会社大学である。サイバー大学は、他に例がなく携わっていて面白い大学である。

特徴は次のとおり。

  • 通学不要(スクーリングなし)
  • 時間制約なしで受講可能(24時間オンデマンド)
  • IT分野とビジネス分野を両立するカリキュラム
  • 単位制学費(学費のムダがない)
講師 川口氏

「今までは見えていなかったことがインターネットの技術によって顕在化する。インターネットが今後、
社会にどのような影響を与え、問題が顕在化するかを注視していかなければならない」と話す川口氏。

■ CIOとは

情報や情報化技術について統制する役割をもつ

CEOとは、"Chief Executive Officer"、最高経営責任者である。CEOは、図1に示すようにC*Oの中で経営の最高の権限を持つ。CTOも聞いたことがあるだろう。CTOとは、"Chief Technology Officer"、最高技術責任者である。また、財務部門を管理する"Chief Financial Officer"、CFOがある。実務的なオペレーションをするCOO、"Chief Operation Officer"を置く会社もある。これらのフォーメーションは会社が目指すべき方針によって様々である。
図1の中で、CIO、CMOについては聞きなれていないと思う。CMOは"Chief Marketing Officer"であり、主にマーケティング分野を所管する。本日のテーマであるCIOは"Chief Information Officer"、経営戦略を情報化投資や情報化投資の面で実現するなど、情報や情報化技術について統制する役割をもつ。日本の企業では情報システム部担当役員がこの立場であることが多い。

図1 CXOの経営体制

図1 CXOの経営体制

情報技術を売り物にしている会社のCTOとCIOとの違い

ここで素朴な疑問が出てくる。CTOとCIOは何が違うのか。モノづくり企業であればCTOの役割は明快である。製品における要素技術などの領域において責任を持つ立場だと考えると理解できるだろう。
ところが、これが情報技術そのものを売り物としているIT企業になるとどうだろうか。「スコープの違い」あるいは「目的と手段の違い」だ。
図2は、マイケル・ポーターのバリューチェーンというフレームワークである。経営戦略を学ぶと出てくるので知っている方も多いだろう。私はサイバー大学で経営戦略を教えている。
バリューチェーンの説明をする。このフレームワークは企業内の活動を示している。この図はメーカ系の企業の例だが、企業が価値を生み出すために、どのような活動をどのような順でやっているかを示している。企業では、それぞれの活動が個々の価値を生み出し、その価値を連鎖させて顧客に届けていると考えることができる。
図の下半分を「主活動」といい、メインの活動の連鎖を示している。上半分は「支援活動」といい、いわゆる主活動を支える活動である。一般的には管理部門と言われている部門が支援活動を行う。人事・労務の部門とか、技術開発(R&D)や調達活動は購買部門などが支援活動として、主活動をサポートする活動として位置づけられている。

図2 マイケル・ポーターのバリューチェーン

図2 マイケル・ポーターのバリューチェーン

CIOとCTOの違いは何か

CIOとCTOは何が違うのか。CTOは主活動を担当する。主活動は価値、つまり収益を得る活動であり、そのための技術的な領域を統括する。一方、CIOは、どちらかというと支援活動を担当する。
「主活動で最高のパフォーマンスを発揮するため、企業の体質改善を促す役割」。
主活動と比較すれば、支援活動は地味な仕事で、なかなか表舞台には出てこない。

CIO補佐官という仕事

私が着任している役職は「CIO補佐官」という。では、CIOとCIO補佐官は何が違うのか。「CIOを支える人か」というと確かにその通りであるが、実はCIO補佐官という職業は民間企業では存在しない。これは主に行政機関や公益法人などの機関に置かれるポストである。2003年7月17日に「各府省情報化統括責任者連絡会議」にて決定したことにより、各省庁にCIO補佐官が設置されている。
行政機関では、行政(国の機関など)の経営者層が頻繁に異動するため、その中で専任のCIOを長期的に配置することが困難である。国の機関のCIOは局長クラスであるが、事務次官が兼務することもある高いポストである。そのため、政策的な事情や政権交代などの影響も受け、その関係で突如変わる。結果的に実務をする専任のCIOを当てるのは困難であることもあり、CIOを補佐する立場としてCIO補佐官を設置している。

■ 企業における情報システムの位置づけ

現在は大量の情報を保存し、必要な情報のみを抽出する道具

次に企業における情報システムの話をしたい。
昔、コンピュータを使って電算処理をする専用のコンピュータ室があった時代。その頃のコンピュータは「電算機」と呼ばれ、文字どおり給与計算や会計処理などの計算をする道具であった。もちろん現在でも計算はするが、コンピュータの役割は変わりつつある。現在は大量の情報をストア(保存)して、必要な情報のみを抽出する道具として機能している。つまり、ほとんど計算せずにローデータを全て保存し、その都度、欲しい情報を計算して抽出する。

情報処理から情報管理へ

なぜ、そのようなことができるようになってきたのか。一つは「データベース工学の発展」によるもの。RDB(リレーショナルデータベース)により、データを保存し抽出する仕組みの技術的、数学的な裏付けが発展して実用化されてきた。
次に「ハードウェアコストの低下」によるもの。コンピュータやそれらを構成する部品の価格が低下した。昔はハードウェア資源が貴重だったので、データを大量に保存することはできなかった。

セミナー写真

川口講師は「コストの低下により、テータを大量に保存することが普通にできるようになった」と講演

適切な意思決定は正しい情報に基づく

経営者は情報システムを通じて現実の世界を推測している。図3のバリューチェーンもそうである。各活動から出たデータが一元集約されて意思決定者に届かなくては適切な意思決定ができない。情報システムはそのために必要となる。
また、単に一元集約されるだけでは十分とは言えない。正しい情報が集約されなければならないのだ。正しい情報とは、内容の正確さだけでなく、意思決定に足るだけの情報の鮮度(新しさ)も求められるだろう。

図3 企業における情報システムの位置づけ

図3 企業における情報システムの位置づけ

コミュニケーションツールとしての情報システム

情報システムにはネットワーク化に伴い共同作業を仲介する役目が加わる。
以前の情報システムはパソコン1台または大型コンピュータ1台に複数の端末という構成が一般的だった。そして、あらかじめ定められた処理を実行するためだけに稼働していた。ところが、現在では一人一人にパソコンや情報端末が配備され、メンバー間のコミュニケーションを促進するツールとしての役割に変化している。
特に行政機関(特に市町村などの基礎自治体)では、住民情報システムというセンシティブなシステムをもっているので、OA系と一緒にすると情報漏洩などのリスクが高まる。適切に分離、コントロールしながら運用を行っている。情報セキュリティに関する関心が高まっているが、情報を管理することが情報システムの役割となった現在では、適切な意思決定、コミュニケーションの促進を両立させるべくコントロールする取り組みが求められている。

■ CIOの職域とイノベーション

コンピュータの事だけを知っていても役に立たない

先ほど、CIOとCTOの違いについて説明したが、CIOの基本的な職域は支援活動であると認識している。企業が、最高のパフォーマンスを出すために、情報という観点で支援する。流れる情報は当たり前のように流れなければならないし、蓄積された情報は正しくなければならない。
ただ正しい情報というだけではなく、正しさの追求も必要であるし、どのくらい細かくあるべきかという粒度の追求も必要である。もちろん、速さの追求も必要になる。常に主活動をしている人からは要求が生まれる。その要求を受けとめながら情報システムを改善し運用することになる。事実、コンピュータを買って据えつければ終わりという仕事ではない。むしろ情報システムでない領域の活動が多い。
つまり、コンピュータの事だけを知っていても役に立たない。どちらかというと業務そのものをどれだけ早く理解し、しかもそれを抽象化して扱えるかの能力が求められるだろう。

セミナー写真

「先程、情報システムは現実世界の写像であると言った。
すなわち、現実世界を知らないと役に立つ情報システムは作れない。
ここはCIOとしては辛いところでもあるし、面白いところでもある」と川口講師。

ビジネスアナリシスが重要である

CIOはコンピュータだけを知っていても務まらない。業務を把握し、理解することが求められる。これをビジネスアナリシスという。
図4の結果は「プロジェクトの成功率」とあるので、プロジェクトをうまく運営していくプロジェクトマネジメントの能力が必要であることは言うまでもないが、プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトを始めて無事に終わらせることにスコープが当てられている。
実は、情報システムにおいてプロジェクトマネジメントが果たす役割は全体の半分である。主に情報システムの導入を開始するところから、納品が終わりましたというところまでである。すなわち、情報システム導入より前の工程については別の知見が必要となる。それが「ビジネスアナリシス」なのだ。

図4 情報システム関連プロジェクトの成功率

図4 情報システム関連プロジェクトの成功率
(出典:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090128/323664/

ビジネスアナリシスが弱いと、さまざまな問題が起きる

ビジネスアナリシスでは「そもそもどのようなコンピュータシステムを入れなくてはならないか」から始まる。「なぜこれ必要なの」「なにが欲しいの」である。Why、Whatというが、この部分の分析が以前は手薄であった。ビジネスアナリシスが弱いことで、さまざまな問題が情報システム導入後に顕在化する。「性能が出ない」「使いにくい」というのは代表的な問題だが、それ以外に情報システムが使われないということもある。信じられないようなことが実際にある。
ビジネスアナリシスは重要である。(図5参照)

図5 ビジネスアナリシスの重要性

図5 ビジネスアナリシスの重要性

目論見通りであるかを見るのが、CIOの役割

システムは戦略に沿う。戦略をベースとしていない情報システムは上手くいかない。経営戦略には必ず「目論見」がある。目標という言い方をしても良い。この目論見が大切である。これまで失敗した情報システム投資は、この目論見が雑であった。
CIOの役割は、役所でも会社でも、トップが決めた経営戦略を情報システムの観点でどう実現するかを引き受ける。その際に、評価という視点を忘れてはならない。
つまり「目論見は適切か」である。システムは戦略に沿うが、掲げた目論見は経営戦略の一つの要素として、経営側が示したものである。
例えば「売り上げを前年比10%アップする」などだ。それが本当にシステムを導入することで10%アップに寄与するのかなどの目論見を見るのがCIOの仕事である。目論見が適切でないなら、情報化投資をいくらしても上手くいかない。上手くいかないものをやるわけにはいかない。これをきちんとCEOに言わなければならないからこそ、CIOでなければならない。例えば執行権限のない課長級や部長級の人員がそれをCEOに言っても、「良いからやれ」で終わってしまう。

CIOの仕事、情報システムの調達

この時点でWhy、Whatはまだモヤモヤとしている。あくまでも目論見の範囲でなぜこのシステムを欲しいのか、どうしたいのかが示されているレベルである。これを実現に向けてWhat、あるいはHowのレベルまで落とし込む。
「Whyに応える情報システムはこうでなくてはいけない。こうしなければならない」というレベルまで詰めていくのが、戦略から要求を引き出す「要求工学」である。要求工学は情報処理の中のひとつの研究分野であり、以前は「設計」のひとつの手法として整理されていた。なぜかというと、欲しい情報システムは自分達で内製することが多かったからだ。
今は内製が少ないので、要求は調達の前段階のプロセスとして整理される。
つまり、外部の業者に対して、欲しい情報システムがどういうものなのかを適切に伝えられなければならない。
図6は、私が考案した調達に際して要求する場合に整理すべき事項を示したフレームワークである。縦軸は時間軸である。つまり、要求の前に前提条件を示さなければならないということである。前提条件を示した上で、前提条件を踏まえた要求事項を示す。さらに、要求事項を超えて新たに提案を求めたい事を示す。
これは要求を整理するという観点だけでなく、調達におけるシステムベンダーからの提案を適切に評価できる枠組みをつくるという意図があり、このフレームワークは私が関与する複数の行政機関の中で職員に利用させ、うまく機能している。

図6 要求定義の構成

図6 要求定義の構成

能力成熟度モデル統合(CMMI)

CIOはガバナンスに関する課題を解決する役目を負っている。
情報システムの世界では、組織の成熟度を示す指標として、CMMI(Capability Maturity Model Integration)、能力成熟度モデル統合というものが用いられる。簡単に言えば「その組織はどのくらいマネジメントされているか」「その組織はどのくらいしっかりしているか」という評価基準で、レベルは1から5まである。レベル1がもっとも未熟な段階で、レベル5が非常に成熟している段階である。
成熟度1は「プロセスは場当たり的で秩序がない」と書いてある。つまり思いつきで色々やってみたがうまくいったか良く分からないレベルである。立ち上がり時期の会社はこういうこともあるが、情報システムでこれをされると結構辛い。「この機能追加してみようか」「この機能はやめようか」とかを思いつきでやられても困る。
管理されたレベル(成熟度2)から、定義されたレベル(成熟度3)から、定量的に管理されたレベル(成熟度4)から、最終的には最適化されたレベル(成熟度5)。ここまで来て、はじめて最適化の完成となる。

表1 能力成熟度モデル統合(CMMI)

表1 能力成熟度モデル統合(CMMI)

ページの先頭へ戻る

質疑応答

サイバー大学とは

質問(坂巻資敏元リコー常務執行役員):サイバー大学の入試はどのようにやっているか。それと実際先生が教えている生徒はどのような方か。年齢層とか、職業とか。

回答(川口弘行講師):サイバー大学はオープンアドミッションという考え方なので、高校卒業程度の学力があり、志望動機書で学修の意思が確認できれば入学できる。オープンアドミッションの大学(放送大学など)も同様だが、国内の他大学のように入学=ほぼ卒業という関係にはない。卒業できるかは入学後の本人の努力によるところが大きい。サイバー大学に魅力を感じてくれる入学者の多くは社会人である。通学なしで学修できる点を評価しているようだ。また、最終学歴が高校卒業の方で大学卒業を目指したい人とか。

セミナー写真

「カリキュラムがITと経営を融合させた領域なので、IT業界で働いている人が経営の知識を身につけて
ステップアップする目的で受講される方もいる。中にはすでに大学を出ている方で、
この領域を改めて学びたいと考えて入学される方もいる」と回答する講師の川口氏。

CIOを評価する指標は無いのか

質問(杉本晴重元沖データ代表取締役社長、元沖電気常務取締役CTO):CIOが行った事業の評価として「システムを入れた」「コストが安かった」「納期通りに入れた」などは分かるが、CIO自身の評価はどうあるべきか。

回答(川口):正しい言い方をすると、CIOを評価する指標は現時点で存在しない。ライセンスがある訳でもなく、求められるスキルセットが確立しているとも言えない。それゆえに人材育成の道筋をつけることが必要なのかも知れない。
また直接の回答では無いが、CIO補佐官の評価は継続して任せてもらえる、ある行政機関での任期が終わった後に、別の行政機関から声が掛かるなど、「求められている」という事実でしか測れないのではないかと考える。

失敗とか成功とかの評価は時間軸と予算などと低いレベルである

質問(尾崎一成西河技術経営塾生、OZコンサルティング・イージ代表):情報システムの成功、失敗、もともと自分達のやりたい仕事を決定できない人達に成功とか失敗といえるのか。

回答(川口):おそらくITProの事例における失敗、成功という評価は、完成したかどうか、サービスが期限内に開始できたなど、QCDの観点によるものだろう。新たな付加価値を生み出したかなどのレベルではないだろう。どちらかというと低いレベルの評価である。

CIOの評価もROIで評価できると良いが

質問(角忠夫松蔭大学大学院教授、評議員):納期通りにシステムが動いたら成功、動かなかったら失敗。単純な見方である。業務システムを1億掛けました、3億掛けました。ROIがちゃんと見えるようになったか。現場にマシニングセンターを3千万投資するのであれば、その成果はROIとして明確にみえる。しかし情報システムはなかなか出てこない。業務システムの評価がどこまで進んでいるのか。

回答(川口):まだまだ未成熟の状態である。方向性として、最終的な結果評価だけでなく、中間指標が必要だと考えている。例えば、売上も、売上の要素を分解して、計測できて評価できるものを積み上げていくという、中間指標の考え方も重要だろう。中間指標は、因果関係に基づくよう設定するので、単に最終的な結果だけを評価するのではなく、情報システム投資により、まず何が変わるのかは計測しなければならない。

目論見通りやることが当面の目標である

質問(角):業務システムは各社によって違うが、かなり雛形ができていて、こういう要素を押さえればこのシステムは成功だ、失敗だということをきちんとやっていくことがCIOの役割だと思うが。

回答(川口):色々な考え方はある。BSC(解説)を評価軸設定のために使う事例はある。ただ、BSCも理論としては存在するが、なかなか現場に落とし込めていないのが現状である。今はまだ、情報システム導入前に個別の目論見を立てさせて、その後、目論見を達成したかというレベルの評価であっても、現場は反発する。そこを解きほぐしている。

セミナー写真

「業務システムの評価がどこまで進んでいるのか。見えるか。
そういうことができてCIOの評価ができると考える」と質問する角忠夫松蔭大学大学院教授。

皆で共通に使おうとすると自分たちの仕事をシステムに合わせざるを得ない

質問(大橋克已元クラレ常務取締役、評議員):システムに人が付いていないか。

回答(川口):汎用機は随分減っているので、システムに人が張り付いていることは昔よりは減っている。

質問(大橋):業務改革をしようとしたらシステムを変えざるを得ない。

回答(川口):おっしゃる通りで、システムを入れ替える前にBPR(解説)という考え方が重要になる。ビジネスアナリシスもその手段の一つなのだが、業務改革している過程でシステムを入れ替える、あるいはシステム入れ替えをきっかけとして業務を改革することが求められる。「自治体クラウド事業」は、共同利用として共通のシステムを使おうとすると、自分たちの仕事をシステムに合わせざるを得ない。それに伴い業務改革の必要性が生じることは国も期待しているところである。

情報化で効率化すると人がいらなくなり対立の構図ができ上がることはないか

質問(小平和一朗専務理事):民間でも官公庁でも同じだと思うが、情報化で組織の効率化、つまり人がいらなくなる。そういう対立の構図が出来ないか。

回答(川口):あるが、中小では人的資源が元々も乏しいので人員削減ではなく適正配置ということになる。

質問(小平):日本が遅れているのは、経理部門、原価部門など機械で情報収集をすれば全く人手がいらなくなってしまう。総務、人事部門もいらなくて、社長が直接労務管理の情報を見れば良いということができる。日本が遅れているのは民間でも官公庁でも同じだと思うが、情報化で組織の効率化すると人がいらない。再配置が難しくて、対立の構図ができ上がってしまうと思うがいかがか。

回答(川口):民間企業は判らないが、官公庁は若い世代ではあまり個人の資質や適正などは人事上考慮されておらず、辞令で行けと言われたところに行く。官民問わず、おそらく大きい組織はどこも同じではないか。

セミナー写真

「中小では人的資源が元々も乏しいので人員削減ではなく適正配置ということになる」と回答する川口講師。

民間ではパートナーとして上手くやっていけるかで選んでいる

質問(西河洋一理事長、飯田グループホールディングス代表取締役社長):優秀なCIOは、社長の頭の中の暗黙知を形式知化して、それをベンダーに作らせるのが良いと思っている。弊社にはCIOがいないし、ベンダーとも付き合っていない。ベンダー選びで失敗されている中で一番どのようなところをポイントとして選定していったら良いのか。

回答(川口):官公庁と民間企業では少し異なるように思う。官公庁ではベンダー選定は調達行為となるため法令や条例等に定められた手続きを遵守しなければならない。そこには公平性が最も重視される。公金で活動しているので当然なのだが。このあたりの視点は民間企業には無い。信頼関係とか、パートナーとして上手くやっていくという考えは民間での考えだと思う。

CIOの役割は情報システム以外のところにある

質問(淺野昌宏元JCNコアラ代表取締役社長、元丸紅ネットワークシステムズ代表取締役社長):CIOは情報システム担当役員というのか、会社内に色々なベクトルをもった考えがある、合せようとした時、CIOの役割はどうなのか。単に情報システムを担当するということではないのか。

回答(川口):CIOに与えられるミッションにより異なる。経営者(CEO)の判断によるところが大きい。CIOの役割のほとんどが情報システムの外側にあり、そちらのニーズのほうが高い。

【解説】

バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard, BSC)

バランスト・スコアカードは、組織の業績・効率に関する評価をまとめた簡潔なレポートである。各評価尺度を1つ以上の期待値(目標値)と関連付けることで、組織の業績がそれら期待値に達していない場合に経営者に警報を発することとなる。1992年の Harvard Business Review の記事にもあるように、バランスト・スコアカードの鍵となるのはそのような評価尺度の選択方法である。バランスト・スコアカードはパフォーマンス管理ツールである。経営者はそれによって戦略的問題に注目でき、戦略立案に注力する。しかし、バランスト・スコアカード自体は戦略立案のためのものではないことを忘れないことが重要である。バランスト・スコアカードは戦略立案や他のツールと同時に存在する。

(引用:ウィキペディア)

BPR(Business Process Re-engineering、ビジネスプロセス・リエンジニアリング)

BPRとは、企業活動や業務の流れを分析し、最適化すること。

(引用:ウィキペディア)

ページの先頭へ戻る

技術経営人財育成セミナー

ページのトップへ戻る