一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第16回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

グローバル時代における知的財産戦略
-海外ビジネス展開で注意すべきこと-

石塚 利博(いしずか としひろ)
((株)日立ハイテクノロジーズ知的財産部主管技師・(知的財産部前部長))

日時 2015年7月27日(月) 17:00~19:00 (講演90分、討議30分)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

講演PDF(案内)(939KB)

これからは中小企業でも国内からグローバル市場でビジネスをしなければならない時代が到来しつつあります。海外でビジネスをするには、特徴ある技術を持ち、競合社に一歩先んじてビジネスを展開する必要があります。その技術などを保護するのが知的財産権です。日立ハイテクノロジーズの知的財産前部長として、活躍している石塚利博氏を迎えて『グローバル時代の知的財産戦略』とのテーマでご講演をお願いしました。
 講演では、日立ハイテクの戦略的知財活動(訴訟含む)、新日鐵住金とポスコの訴訟などの事例なども聞きながら、知的財産戦略を考えたいと思います。ビジネスと技術を保護する、技術経営戦略について、講師との意見交換の中からも学ぼうと考えています。

【講師略歴】

石塚 利博(いしづか としひろ) 氏

大学院で人工心臓の研究後、日立製作所に入社しMRIの研究・開発設計、液体クロマトグラフ・質量分析計の開発纏めに従事。希望し知的財産部に異動(分社化し日立ハイテク所属となる)し、弁理士資格取得、部長として組織強化、戦略的知財活動により、平成21年度特許功労賞経済大臣表彰(特許戦略優良企業賞)受賞(日立グループでは初)、訴訟責任者として日本で米国企業を特許侵害で訴え、税関の輸入差止め申立ても行い勝訴し和解した経験有り。 M&A、契約交渉、産学連携なども従事。
日本ライセンス協会理事。

(株)日立ハイテクノロジーズ 知的財産部主管技師 弁理士 石塚 利博

『グローバル時代における知的財産戦略 -海外ビジネス展開で注意すべきこと-』

司会(小平和一朗専務理事):本日は「グローバル時代における知的財産戦略」というテーマで、日立ハイテクノロジーズの石塚氏を講師にお招きした。当財団では「グローバル研究」に取り組んでいる。これは「海外の情報がなかなかマスコミに流れないため、研究会を開いて海外の情報を集めて行こう」という目的で始めた研究会で、「知的財産」についてはなかなか良い情報が得られないと言う事で、石塚氏に講演をお願いした。石塚氏は税関の輸入差し止めなどで、日本の中では比較的先端な取り組み実績をお持ちで、特許庁を始め各方面の講師をされている。
石塚氏は北海道大学で人工心臓を研究。日立製作所に入社後はMRI、液体クロマトグラフ質量分析計など最先端の技術開発を行い、知的財産部で先端的な事に取り組まれた。その後、分社化し日立ハイテクノロジーズ所属となられて、現在知的財産部主管技師で活躍されている。

講師の石塚利博氏

「日立時代、『液体クロマトグラフ質量分析器』の開発もやった。・・・外資系の会社からあること無いこと
非難されて、結局、失注してしまった。そこで『特許で攻撃できる』と言う事で反撃し、その会社の特許
侵害の証拠資料も用意して、和解金数億円取ることができたという実績を持つ」と話す、講師の石塚利博氏。

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講演概要

講演内容詳細 (830KB)

国内の状況が悪くなって空洞化している

講師(石塚利博日立ハイテクノロジーズ知的財産部主管技師):日本の輸出依存度は実は低い。2011年のデータによると、輸出依存度は十数%である。昔は対米貿易は3割位あったがガタっと減って、対中貿易の方が増えている。いまは対中貿易も減って来ているが、依存する国が随分変わって来た。
これには実は裏があって「アメリカの輸出に対しては非常に利益が出ているが、中国では利益を出している会社が非常に少ない」と言うのがある。最近出た本で『チャイナ・ハラスメント-中国にむしられる日本企業-』というスズキの松原邦久氏という方が書いた本だが、その中でも「中国のビジネスは利益を出すのは非常に難しい」と書いている。
それと日本の国際競争力、これはスイスのIMDが出しているのだが、現在の国際競争力ではなく「日本に投資したら価値があるか」という評価だが、それで言うと日本は26位だった。良くないのが、国の制度・縦割り行政・許認可・税制の問題が非常に遅れているとの指摘である。そういう事で、20年くらい前には日本に海外の製薬会社の研究所はいっぱいあったのに、半導体のテキサスインスツルメントの研究所も、そういうのがみな無くなった。日本に置く価値がなくなった。アジアの中心が日本ではなくなってしまった。また、国内の状況が非常に悪くなって、生産が海外に移り国内が「空洞化」してきている。

講師の石塚利博氏

「アジアの中心が日本ではなくなってしまった。また、国内の状況が非常に悪くなっ
て、生産が海外に移り国内が『空洞化』してきている」と話す、講師の石塚利博氏。

国内の企業も訴訟が多くなった

日本の知財の状況がどうなっているかと言うと、昔は「日本知的財産権協会」があり、それに日本の企業が1,000社以上入っていて、話し合いで日本企業同士が解決しようという流れだった。
ところが最近非常に熾烈になってきていて、ごく最近だとサントリーがアサヒビールをノンアルコールビールの特許侵害で訴訟した。
非常に注目されているのが、「島野製作所」で、小さい中堅企業だが、そこがアップルを訴えた。これは国際的なサプライチェーンの問題で非常に影響が大きい。
「切り餅事件」と言うのがあって、切り餅で餅の横に切れ目を入れている特許、「ちょっと特許として進歩性がどうか」と言うのがあるが、最終的に餅の切り方だけで、8億円の判決が確定した。さらに越後製菓が、きむら食品を45億円の損害賠償で提訴した。


何を言いたいかと言うと、以前と違い中堅企業などでも国内企業同士でも熾烈な訴訟をやる場合がある。
トーソーが油メーカーの会社を訴えた。約20億円近く取って、そこの社長がクビになったと言うのがある。
あと非常に注目されているのが、この新日鉄住金とポスコの訴訟の件だ。これは1,000億円の損害賠償を請求している。
あとは東芝のフラッシュメモリでサンディスクの社員が「SKハイニックスに対して営業秘密を漏洩した」という件で、これは約300億円で和解した。 

マイクロソフトは訴訟で凄い金を取られている

世界で見ると、実はマイクロソフトは訴訟で凄い金を取られている。
$1=100円で考えると、例えばこれだったら1,800億円。これは製薬会社のアボットが被告になった例だが、マイクロソフトとか実は訴訟でいっぱい取られている。日本と比べたら損害賠償金額が桁違いに高いという事だ。(図1参照)
モトローラやノーテルの件は非常に有名だが、訴訟で使えるとなると、特許1件でも、数千万で取引されるという状況になっている。

損害賠償ベスト10

図1 米国の最近の損害賠償ベスト10(1995~2010年)
(引用)ヘンリー幸田(2013.11)『なぜ日本の知財は儲からない』

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中国がとてつもない速度で出願を増やしている

一方、非常に重大なのが、中国がとてつもない速度で出願を増やしている事だ。
これは国家戦略だ。共産主義国だから不動産は使用権しかない。ところが無体財産権の特許には所有権がある。普通は逆で、不動産には所有権はあるけど特許には大昔は所有権が無かった、だから模倣されたわけだ。
華国鋒元首相は「将来に世界を制覇するのは知財だ」と言っている。だから中国と言うのは中国で基幹の重要技術、自動車みたいな重要技術は「合弁」じゃないと認めない。
なぜ「合弁」にするかと言うと、合弁会社にして図面とか全部頂けることになる。中国に行ったときに某企業の方もかなり怒っていたが、いつの間にかその企業の図面がそのまんま模倣業者に行っていたとのことだ。会社で自分が入手した図面は個人が悪用し、知り合いに図面を流してしまうこともある。国家戦略として、基幹技術を手に入れようとしている。

ほとんどの日本のグローバル企業は海外で訴訟をやっている

実は中国は、裁判の勝率7割ぐらいで凄く勝率が高い。アメリカも6割ぐらいで比較的高い。ドイツも7割位で高い。ところが日本は2割である。最終的に判決までいくのは非常に少ないが、判決まで行った事件でもこんなに差がある。そうするとどうなるか。グローバルな企業は「やっても勝てない、勝っても金額が低い」ので、日本で訴訟なんかもうやらないと言っている企業もある。

中国人はみな訴訟に慣れてきている

中国の人は、訴訟に慣れてきている。著作権に至っては25,000件だ。今の所はほとんど中国人同士でやっている。ご存じの方もいると思うが、インドと同じく、中国国内でも言葉が通じないので、違う地方の人は信用しないとのことだ。
これだけ訴訟に慣れてくると、日本企業や海外企業は将来多数被告になるとの意見もある。 

日本企業は訴訟に弱い

ご存じの通り、日本企業は訴訟に残念ながら強いとは言えない。
一般的にまず社内が大変で「マイナスイメージ」だという発想がある。
ある知財高裁の所長がむかし講演で言っていたが、詩の「雨ニモマケズ」の中に、「北ニケンクワヤソショウガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ」と書かれている。
ところが、アメリカとかでは訴訟は当たり前だ。
こんな日本人の話がある。「お隣さんとは非常に仲が良かったが、ある日、間違えて塀を壊してしまった。そしたら隣の人が私を訴えてきた」と。その日本人はびっくり仰天して「なんで私を訴えたのですか」と聞くと、「訴えないと、保険が出ないでしょ」と言われたそうだ。だから別に「訴える事が悪い」という考えじゃなく、「訴えないと保険が出ないから訴えただけですよ」となる。
日本で訴えられたら「よっぽどその人が悪い事をやったんじゃないか」というイメージになる。「紛争の単なる解決手段」という考えなので、日本人と発想が違う。
日本だと訴訟がこんなに少ない、知財全部入れて500件位しか無い。特許に至っては150件位しかない。今はますます減る状況になっている。 

中国は、出願件数を増やして、世界の知財の主導権を握ろうとしている

昔は、世界の特許を3極、アメリカ・欧州・日本でほとんど決めていた。ところが中国は政治的に、例えば温家宝元首相が「未来の競争は知的財産の競争になるだろう」と言って、補助金を使って件数を増やしている。中国も韓国も入って、今は5極になった。
20年位前だったら、例えば日本が中心となり「アジア特許庁」を「欧州特許庁」みたいのを作れたかも知れないが、韓国も伸びてきているので、今となってはもう簡単ではない。
20年以上前は、日本の弁理士会とか特許庁も含めて中国に知財制度を教えてあげていたとのことだ。ところが現在は欧州特許庁と仲良くなっている。そういうのは戦略的に上手い。「日本の影響下にいたくない」と言うのがあるらしい。
新幹線の例で考えてみたら非常に分り易い。出願なんかも補助金を使って「特許になったら金をあげるよ」と言う風にして件数を増やして、世界の知財の主導権を握ろうとしている。

韓国は3年で部品、素材や製造装置で追いつくようにするという国策で動いている

韓国などもIMF危機で国が大変な状況になったので、何としてでも経済を立ち上げようと言う事で、サムスンなどにも、日本は技術提携などした。
ところがサムスンなどは、アメリカに輸出すると、パテントトロールを含めて半端無くお金を取られている。だから「ノー・パテント、ノー・フューチャー」と言う事で、「特許が無いともう駄目だ」となった。
日本人のエンジニヤで能力のある人ほど、例えば「年間2,000万円出しますよ」と言われたら、生活が苦しければ韓国企業に行く。
サムソンなどは「技術は買う、入手する」という考えだ。だからサムスンで非常に優秀なエリートは、実は知財の人だ。そういう人たちが特許を調べて、「どの技術を買ったらよいか」というのをやっている。だからM&Aも含めて「技術は入手する」という考えを持っている。
あとは国策として「部品、素材や製造装置を作ろう」としている。例えばサムスンでスマホが随分売れている。実は知っての通り「部品」は6割位が日本の部品だ。チップコンデンサにしても抵抗にしても、それこそソニーのイメージセンサーにしても、6割以上が日本の部品だ。韓国・中国は見掛け上、売上・輸出額は大きいが、それはアセンブリしてスマホとか完成品を売ったお金だ。ところがその部品を輸出しているのは日本で、大事なのは「貿易付加価値」である。小川紘一先生の話では、アップルが儲かっているのは、スマホの4~5割位の利益があるから。ところがアセンブリをやっている中国のメーカーは5%程度の利益しかない。それが本来の「貿易付加価値」だ。
そういうことで、私が約3年前にソウルで「韓国は『3年で部品、素材や製造装置で日本に追いつくようにする』という国策で動いている」と聞いた。

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スティーブ・ジョブスは「技術は真似るものじゃない、盗むものだ」と言っていたらしい

みなさんご存じの通り、日本は町工場でも非常に技術のある所がある。
そういう事で当然アップルなんかは発注先を隠していた。
アップルがどういった会社か、というのが分る非常に面白い映画があって、原題は「パイレーツ・オブ・シリコンバレー」、日本の映画の名前は「バトル・オブ・シリコンバレー」。これはビル・ゲーツとスティーブ・ジョブスが喧嘩してやり合う、実話に基づいた話で、たとえばスティーブ・ジョブスなんかは、「技術は真似るものじゃない、盗むものだ」と言って、海賊旗をオフィスの机の上に飾っていた。
それで原題が「パイレーツ・オブ・シリコンバレー」。それでビル・ゲーツとスティーブ・ジョブスで「あいつが技術を盗みやがった」と互いに喧嘩している。ご存じの通り、スティーブ・ジョブスは「どういうニーズを実現するか」と言う事に凄い感性を持っているが、パワハラなんか半端じゃなく「とにかくこれを何が何でも作るんだ。徹夜してでも作れ」という感覚だった。それで実現出来ていたのだが。

島野製作所は、アップルに対して日本で独禁法と特許権の侵害で差し止め訴訟

(株)島野製作所は、コネクタの凄く良い技術や、特許を持っている会社で、それでアップルから頼まれて、設備投資もして新製品を作り、ピンの開発もやった。
そうしたら突然発注が来なくなった。
アジアの他の企業で作られていた。
それで「設備投資したのだから」と言ったら、他のサプライヤは安く作れるので、「差額分、1億6千万払え」となった。新しいサプライヤは開発していないから安く作れるわけだ。これは納入した後だから、日本では不当なリベートに相当するとのこと。それで結局、島野製作所は怒って、日本で独禁法と特許権の侵害で差し止め訴訟をやっている。
これが非常に注目されている。
非常に重大なのは、島野製作所の特許が米国で登録されている事で、米国でアップルの差し止めとか、損害賠償をやったら非常に高額になると思うので、これがどうなるか関心がある。
これからは、日本の中堅企業に頑張って欲しいと思う。島野製作所は、従業員350人で、売上30億円の会社である。実は日本にはこういう技術のある会社がいっぱいある。それなのに、苦労している会社も多い。

完全垂直統合型が一番強い

そういう事で、「完全垂直統合型」が出来ると言うのが、本当は一番強い。
例えばGEのジェットエンジンなどがそうだ。
開発からサービスまで全部押さえてしまう「完全垂直統合型」だ。
それで有名なのがYKK吉田。YKK吉田は、ファスナーの材料から自分の所で作っている。製造装置も自分の所で作って、最終的に商品まで作る。YKK吉田はワールドワイドで海外の従業員の方が多い。日本で作ったファスナーの製造装置を各国に出している。完全に材料から製造装置まで全部押さえている。そうすると簡単に模倣ができない。
弊社の場合もそういう装置があって、電子顕微鏡は製造上のノウハウが色々ある。
例えば、電子顕微鏡の部品一つとっても、そのノウハウは簡単に模倣できない。
模式図的に言えば、製薬会社は数件の特許で押さえる。
インターネットとかコモディティ製品などは何万件の特許だから、もう簡単に独占なんかは出来ない、クロスせざるを得ない。(図2参照)

特許群のイメージ図

図2 ビジネスを構成する特許群のイメージ図

米国は、訴訟してから交渉

訴訟の件になるが、日本の場合、「交渉が失敗したら訴訟」と言う考えがある。アメリカは「訴訟してから交渉」だ。日本企業も最近は「訴訟してから交渉」と言う風に変わってきていると思うが、日本企業の場合、とにかく社内のネゴに非常に労力が掛かる。
訴えられて訴え返すのは「やらざるを得ない」と言う事で簡単だが、「攻撃的に訴える」と言うのは非常に社内の説得が大変だ。
「負けたらどうする」「負けたら恥になる」みたいになってしまう。あとは内部の体制作りとか、説得が非常に大変だと言うのがある。

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訴訟和解をニュースリリースで公表することで特許侵害を防ぐ

これは訴訟和解の時のニュースリリース(図3)である。
これはちゃんと相手の了解を得て出している。
いまアメリカの企業だと、「単に侵害警告など文句言われたから金を払う」企業なんて無い。なぜかと言うとエンロン事件の後、証券会社とか株主に対して、キチッと説明出来なければダメだからだ。ある程度判決で白黒が付かないと「なんでそんな金を出したんだ」となってしまう。これが何千万円だったら良いが、10億円以上になったら株主に報告の義務が発生するので、「裁判でこう負けたから出さざるを得ないんです」と説明出来なくなってしまう。
このニュースリリースも、こういうのを何故弊社が出したかと言うと、同業他社がこれで驚くわけだ。
「日立ハイテクはアメリカのFEI相手に10億円以上取ったんだ」と気づいたら、日立ハイテクの特許は誰も使いたくない。自分が使ったら手痛い目にあうかもしれないと思うから。
事実、この後に某会社からお金を貰えた。

和解の時のニュースリリース

図3 和解の時のニュースリリース

「特許に対して怖い会社だ」というブランドを作る

そういう事で、「特許に対して怖い会社だ」というブランドを作れる。特許だけじゃなくて、意匠・商標も含めてブランドを作ると言うのがある。
具体的にどういう風にするかと言うと、例えば、組織をちゃんと作って、ニーズ、これはロードマップだが、上に半導体のニーズ、そのニーズに対してどういう開発をしていくか、どう言う開発をして他社に勝つか。他社に勝つための特許を取って、市場シェアを押さえて行く。それは数年間の計画でやる、5年以上の計画で地道にやっていくのが大事だ。他社と比較する時に、顧客ニーズと要素技術のマップを検討して作って、他社と比較し、うちの「どこが強くて、どこが弱いか」と言うのを検討して、戦略を決めて行く。発明創生にしても、営業に必ず入ってもらって、顧客ニーズを入れてやる、というやり方でやっている。 

米国、韓国は特許が憲法に入っている。残念ながら日本は入っていない

知財に対する考えは、例えば日本と米・韓で違う。なぜかというと、米国、韓国は特許が憲法に入っている。残念ながら日本は入っていない。

特徴的な技術を持つ中小企業も多い

あと中小企業のブランドなんかも随分いろいろ調べている。
「ネジザウルス」といってネジ山が潰れたネジをペンチで外す道具で、これは(株)エンジニアの高崎充弘社長から直接講演を聞いたが非常に面白い話だった。
あとはユニバーサルデザイン。これは結構有名な話だと思うのだが、「不可能を可能にした男」岡野工業(株)の岡野雅行社長だ。携帯の電池ケースを作った人だ。あとは「痛くない針」の話とか。

石塚講師

「グローバル時代、日本も訴訟で強くならなければならない」と話す石塚講師。

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質疑応答

基地局を完全にブラックボックスにして、標準にするのは端末で、それで端末を競争させる

質問(杉本晴重理事、元沖データ社長):通信に関係していたのだが、通信の標準の話と、知財の話が非常に悩ましい。ある所は標準に入れて、ある所は別にと。御社の戦略の中では余り出てこないのか。

回答(石塚講師):弊社はすり合わせ製品なので、垂直統合型で標準にはほとんど関わっていない。ソニーの中村氏は「特許が弱いから標準化せざるを得ない」といっている。JPEGやMPEGにしても「本当に良い特許で強かったら標準なんかにする必要は無い」と言う。日本企業同士でやった時には、儲かっている。ところが、小川先生が解析しているのがあって、ヨーロッパで携帯と基地局で、基地局を完全にブラックボックスにして押えて、標準にするのは、端末の競争させるためだ。携帯側は標準にして買いたたく。標準で儲けるのではなく、標準で競争させ、そういうビジネスモデルにするという事だ。

日本の場合は実用新案を出しても技術評価書が必要、そのまま権利行使出来ない

質問(佐竹右幾 CKS株式会社代表取締役):弁理士とはお付き合いしているが、中国では特許を取らなくても実用新案を取ってしまえばほとんど知財が決まってしまうと最近良く聞く。御社の場合は、中国で実用新案で申請する事があるのか。それと日本は実用新案を勧める弁理士が余りいない。御社は実用新案と特許の比率はどの位なのか。

回答(石塚講師):ほぼ100%特許である。特に日本の場合は実用新案を出しても技術評価書が必要で、そのまま権利行使出来ない。登録期間も短い。日本でもライバル企業のS社とかは良く実用新案を出していた。弊社は最終的に権利行使を前提にして、質の高い特許だけ出すことにしているので、日本出願だけと言うのは無い。極端な事を言うと日本出願をやらない特許もある。例えば半導体関係だと日本にはもうメインは東芝しかいない。アメリカ、中国、韓国、台湾に出した方が良いとなる。

佐竹CKS社長

「日本は実用新案を勧める弁理士が余りいない」と質問する佐竹CKS社長。

「システム投資=ビッグデータ活用」という時代になって行く

質問(淺野昌宏理事、アフリカ協会副理事長):10年後の市場規模はどの位になるのか。顧客から言うと広告費の一部、商品開発費用の一部、あるいは営業費用の一部といった所からコストが出るのか、トータルの市場規模はどの位になるのか。

回答(上村講師):外部のデータに頼らざるを得ないが、少なくとも2020年、5年後に3,400億円と言われていて、さらに5年後に5,000億円、6,000億円は十分に超えいく規模感だと思っている。いま国内のマーケットの中で、SI領域でシステム投資として使われている企業の財布が、よりデータ活用・データにまつわるシステムになって行くと思うので、今現在のシステム投資のマーケット全体が日本のビッグデータのマーケットになって行くのではないか「システム投資=ビッグデータ活用」という時代になって行くのではと思う。

一番良いのはオンリーワンだ。弊社で利益を出しているのは数えるほどの世界トップシェア製品

質問(小平):ダイソンもデザイン性であろう。

回答(石塚講師):その通り。買い叩かれるモノを作っちゃダメだ。そうしたら、あっという間に中国に作られてしまう。恐ろしいと思っているのは、3次元計測器を使って測定し3Dプリンタで作ったら、あっという間に同じものが出来てしまう。3Dプリンタの性能が上がれば、金属だって出来る。だから付加価値の高いものを如何に作るか、一番良いのはオンリーワンだと思う。弊社だってほんとに利益を出しているのは数えるほどの世界トップシェア製品だ。

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クレームの範囲が広ければ広いほど無効理由で潰されるリスクが高くなる

質問(瀧川淳 日本エヴィクサー株式会社代表取締役):1個の特許に対して、成立するまでどれくらいの時間が掛かるのか。

回答(石塚講師):それは開発も含めてか。

質問(瀧川):開発の前から出願される事もあると言う事で、結構まちまちなのか。

回答(石塚講師):そう、まちまちだ。実は、特許は単純じゃなくて、わざと遅らせる場合がある。わざと特許にするのを遅らせて他社情報を入れてやる。素人は、「特許はクレームの範囲が広ければ広いほどよい」と思っているが、それは大間違いだ。クレームの範囲が広ければ広いほど無効理由で潰されるリスクが高くなる。一番良い特許は、ライバル企業の製品をドンピシャのクレームで押さえられる特許だ。余計な構成要件は無いほうか良い。余計な限定も無い。他社が絶対回避できないクレームだけ押さえているのが一番強い。だから、他社情報を入手して特許を作り込むと言うのはある。それが出来ると攻撃できる特許になる。

JETROの情報は非常に正確だし、直接聞きに行くと現状の最新の情報を教えてくれる

質問(前田光幸 グローバル研究会座長、早稲田大学非常勤講師):JETROは海外の各拠点に信頼できる弁護士・弁理士のネットワークを持っているのか。

回答(石塚講師):持っている。進出したのが遅れた国は違うが、中国、韓国、アメリカとか主要な所にはある。後はタイにも。実はJETROにいる方は特許庁や経産省から出向している人が多い。あとは企業から稀に行っている人もいる。JETROの情報は非常に正確だし、直接聞きに行くと現状の最新の情報を教えてくれる。ただし対策してくれるかは別だ。あとは特許庁から、例えばJETROソウルに行っている人なんかは2年で変わってしまう。

前田光幸グローバル研究会座長

「JETROは各拠点に信頼できる弁護士・弁理士のネットワークを
持っているのか」と質問をする前田光幸グローバル研究会座長。

日立は、将来的にはグローバルに発展しようとしているのか

質問(西河):日立グループ従業員333,000人のうち、日本人と外国人はどの位の比率なのか。

回答(石塚講師):今はまだ日本人の方が多い。私のおぼろげな記憶では7~8割は日本人だ。白物はやっているが、テレビとかの大手の家電部門がなくなったので、例えば昔はインドネシアやフィリピンにすごく大きい工場があったのが無くなった。今後出来るのは、例えばイギリスに列車のメンテナンス会社とかだ。

質問(西河):将来的にはグローバルに発展しようとしているのか。

回答(石塚講師):これからしようとしている。

質問(西河):そうすると外国人比率がもっと高まって来るのか。

回答(石塚講師):多分なって来る。特に、いま日立は社外取締役の比率は外国人を含めて一番多い。

司会(小平):本日はありがとうございました。

意見を述べる西河洋一理事長

「将来的にはグローバルに発展しようとしているのか」と聞く西河洋一理事長

(参考資料)石塚講師の論文がNPIT(工業所有権情報・研修館)特許研究60号に掲載されています。

http://www.inpit.go.jp/jinzai/study/study00020.html

(注)HEMS:Home Energy Management System の略である。 家庭で使うエネルギーを管理し、節約するシステム。

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