一般財団法人アーネスト育成財団

技術経営人財育成セミナー(第20回)変革期のリーダーが学ぶことは何か

ベンチャー・中小企業の事業活性化のために

小林 守(こばやし まもる)

日時 2016年7月21日(木) 17:00~19:00 (講演90分、討議30分)
場所 一般財団法人アーネスト育成財団事務所内 アクセスへ
参加費 3,000円(終了後の懇親会費用を含む)
定員 最大18名(定員になり次第締め切ります)
申込方法 FAX 03-6276-2424 または Eメールoffice@eufd.orgにて
主催 一般財団法人アーネスト育成財団

講演PDF(案内)(79KB)

日本経済や地域経済の原動力として中小企業の再生が期待され、多くの公的な支援政策が打ち出されてきました。しかしながら、実態は、地域産業集積の衰退や中小企業のモノづくりは、依然として疲弊しています。一部に元気なonly one企業の存在はあるものの、再生の道は見えていません。
グローバル化など、ものづくりを取り巻く産業構造が大きく変化する中で、再生のためには中小企業にいかなる改革が必要なのでしょうか。厳しい環境にあっても生き残っている企業、成長を果たしている企業の事例からその要因を学び、成長メカニズムを考察します。
今後のベンチャー・中小企業における成長戦略の一助となるお話になればと思います。

【講師略歴】

小林 守(こばやし・まもる) 氏

(株)日立製作所・情報通信Gにて、汎用&スーパーコンピュータの生産技術開発とモノ造りに長年従事してきた。
1990年後半より(株)日立コンピュータテクノロジ&マニュファクチャリンクの設立に関わり、代表取締役社長に就任。日立グループ初のEMS新事業を立ち上げるも、社内の横断的事業統合の難しさから幾多の困難と失敗を経験してきた。
その後、産業集積の崩壊、地域中小企業モノ造りの衰退に憂慮し、その活性化と再生に力を注ぐべく、公的支援機関にて泥臭いモノづくり支援事業に関わり現在に至る。

(株)産創コラボレーション代表取締役(現在)
さがみはら産業創造センター<(独)中小機構出資>メンター(相談役)(現在)
先端フォト二クス(株)(東大先端研ベンチャー) 相談役(現在)

支援分野 :技術経営、産業創生・新事業創生
学 歴  :芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科 修了
      法政大学大学院産業創造研究科博士課程後期 満期退学

産創コラボレーション  代表取締役 小林 守 (こばやし まもる)

『ベンチャー・中小企業の事業活性化の為に』

司会(小平和一朗専務理事):本日は『ベンチャー・中小企業の事業活性化の為に』という講演で、産創コラボレーション代表取締役の小林守氏をお呼びした。小林氏は、日立製作所・情報通信グループにて事業情報通信に長年取り組まれた。
1990年には日立コンピュータテクノロジ&マニュファクチャリングの会社設立に関わり、代表取締役社長に就任された。その後いろいろとご活躍されている時、芝浦工業大学の工学マネジメントコース(大学院)で知り合いになった。それから色々なアドバイスを小林氏から受けながら、今日に至っている。今日はベンチャー・中小企業の経営者の育成についてお話を伺う。

小林守氏

「中小企業の中小企業の経営者は、お金の仕組みやカラクリを非常に良く理解
していて詳しい。また、技能・技術者出身の社長が多いのであるが、経営に
対しても非常に詳しい。もちろん勉強している」と報告する講師の小林守氏。

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講演概要

講演内容詳細 (2.50MB)

産業構造の起動分析と中小モノづくりの位置づけ

これは私からご説明するまでもなく、産業構造でいうと73~74%がサービス産業に就業している。サービス経済化といわれているが、やはりモノづくりは大事であるというのが私のスタンスであり、製品出荷高、付加価値という目で見ると、製造業は非常に大きな位置付けにある。いま24.5%あるので、ほぼサービス産業と同等の付加価値を持っている。
サービス産業そのものが、生産性が非常に低いと一時は言われた。最近は生産性が少し伸びてきている。製造業は依然として大きな付加価値を持っている。製造業は裾野が非常に広いということで、生産波及効果、雇用誘発の問題や付加価値誘発額であり、いわゆる経済効果から見ると、飛び抜けて裾野が広い。その意味で、モノづくりが非常に大事で、私も携わっているということである。 

大企業と中小企業の関わりの変化

実はモノづくりの実際の現場は、大きく変化している。従来は産業集積の中で、中小企業が生きるという意味合いが強かった。ご承知の様に、親企業との関係や分業システム、また親企業を通して親企業の仕事をするといった、やはり親企業に対する依存体質が非常に大きい組織構造だった。
海外展開が加速している中で、親子の関係、少なくとも企業城下町型集積、たとえば日立地区の日立、豊田地区のトヨタなどの関係がどんどん崩れて、いよいよ依存体質からの脱却であるとか、自ら高付加価値なモノづくりをする必要性などが色濃くなってきた。
そこに我々のミッションがあって、新規事業、第二・第三の創業という新規事業の創出・創生が非常に重要だということである。どの様な新規事業の位置づけがあるのかというと、一般に言われる事では、海外では出来ない。もっと行くと国内でも他社が出来ない部分で付加価値をどの様に付けるか。よくいう"Only one"、"NT = Niche Top"、"GNT = Global Niche Top"といった世界に、どうやって進化していくかというのが大きな課題である。これが現在の製造業の置かれた背景である。 

モノつくり経営の根底に流れるもの

数だけで言えば、150~160社に対して色々な関わり方をしてきたが、その中で108社位の新規事業の関与をしてきた。
彼らは新規事業・第二創業しようという企業であるから、小企業で疲弊している企業よりは、少しスタンスの高い企業である。経産省のスペシャリストやメンターなどのミッションの中で、色々な関わりを持ってきていて、そこから得られた経験を少し整理してみた。業種はここに示した通りである。(図1)

図1

図1 新規事業創生支援の業種

成長する中小企業の経営者に共通する資質 

その様な企業で、海外では生産が難しい分野、国内でも他社ができない、付加価値のある分野、あるいは"Global Niche Top"とまではいわないが、その様な価値のある分野に臨むのに、あるいは一部成功している中で、そこに共通する資質を経営者の立場で見てみると、何が言えるのか。今の108社を精査した中身から、このような事が言えるのではないか。
一つは、変化への対応力である。大手の社長は、市場を見ているが、中小企業の社長はやはり顧客を見ている。顧客の本当のニーズ・変遷する新たなニーズ・課題は何かというところを含めて、それをどうやって実現するか、それをどの様に事業に結び付けていくかという対応力・戦略を一般的には採っている。
成功する経営者は、そこに非常に力があるという事である。
中小企業は元々リソースが非常に小さいので、そのために自分だけでは顧客の新たなニーズになかなか応えて行けないので、その様な環境の中で、どうやってネットワークを作るか、その様な力が重要であるという事が分かった。それが全てではないと思うが、その様な数と中身を精査して共通項を見つけると、このような具合になる。
それから知力という意味合いで、当然の事ながらよく勉強している。知識・智慧・技・戦略ノウハウ・外部資源の戦略的活用の方法である。もう一つ後から出てくるが、お金に賢いというのか、財務会計は税理士にやらせれば良いが、管理会計の目利が非常に強くて、非常に賢い。ケチという意味ではない。企業のからくりに詳しいということが、共通的にいえる。
まず、人間性の問題では、組織を動かしているだけの事があり、部下や社員が皆付いてくる人物であるという感じを持っている。非常に成功して上手く行っている中小企業の社長は、全員では無いにせよ、そう言える。もちろん体力が無いと気力が出ない。道徳経済合一などという難しい古い話を出したが、これは渋沢栄一の本の中に出てくる話であるが、これに結構な接点があるという思いがしている。このような事が今日の主題である。

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内部的イノベーション

内発的イノベーションという格好良い表現をしたが、いわゆる社内組織で、どうやって改革しているのか、ということである。それだけでは中小企業はリソースが小さいので、外部資源をどうやって活用するのかということに、どの様に長けているか。この二つがやはり上手く噛み合って、相乗効果によって成長を果たしている、という事が、ある程度は、いえそうなので、敢えてこの様に書いた。 

成長企業に共通する特徴的なパターン

他者を差別化するだけのコア・コンピタンスを有していることである。これは私の色目かもしれないが、根底にはやはり生産技術力というものがある。モノづくりには、一般的には生産技術力と製品開発力がある。最近は、プロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーションとよく言われて久しい。そのようなパワーを持っている。当然、知財権を掲げて、世にいうブランドというものを使っている。その様な位置づけがある。
それから、これは結果論で表現が逆になっていて申し訳ないが、当然ながら一気に勝ち組になる訳ではなくて、中小企業は色々なプロセスを経て、経験を積み上げて、市場に出す経常利益率を上げている。先ほどお話した様に、新技術・新製品の開発においては、大手は市場を見ているが、中小企業は顧客を見ている。その意味で、新技術・新製品は、顧客ニーズに応えることから生み出していると、かなり言える。これも結果論であるが、何れの企業も下請けの体質から脱却しているという事がいえる。上手く行っていない所は、やはり依然として依存体質で、「半分A社に依存している」といった状況が続いている。それから「専門分野に特化する傾向」がある。業種はこの表の通りで、この様な業種で以上のことが言えそうだという事になる。

コア・コンピタンスの形成
コア・コンピタンスは、どの様に形成していくのか。これも私の考えが半分入っているが、過去の経験と支援の結果をまとめてみると、次のような事が言えそうである。(図2)
まずリソース、特に技術の棚卸しを行う。自社にはどの様な技術・スキルを持った人間が、どの様に位置しているか。その上で我々に何ができるか。ポジショニングの話があって、その既存の自社リソースに何を足せば、あるいはどこの外部資源を使えば、顧客のニーズに対応できるか。その様な視点で見てみる。
そして、コア・コンピタンスに成り得る可能性の高いモノを抽出する。もっと言えば、顧客ニーズが基本となる。顧客ニーズに応えるべく、どうやって価値のあるモノを抽出するか。これでだけでは当然足りないから、ビジョンを持って、最終的には外部の力も借りて、総和としての事業開発能力を構築していく。私も芝浦工大で色々教わり、法政大学で研究していたが、ここに書いてある通りで、自社の事業ドメイン・企業ドメインがどこにあるかという事を明確にしないと、非常に重要だと考えているステークホルダである社員が、ある方向に動けない。それをヒシヒシと感じた。
その意味で、前述の整理を行った後に事業ドメインとして整理する必要がある。
その上で、社内外の全てのステークホルダに対して、あるベクトルを示す。その事業ドメインを完成させるために何をすべきかを考える。その様なアプローチが非常に有効だと考える。

図2

図2 コアコンピタンスの形成過程

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モノづくり中小企業における新規事業創出

その様なスタンスの中で、新規事業をどの様に創出・創生しているかということである。あまり、いつ、どの様にして生まれるかということはあまり重要ではないが、ポジショニングの話を含めて少し話をしたい。
やはり顧客の開発現場、モノづくり現場、その様な場所での課題が、中小企業にとっての大きなネタであるので、そこに注力する。
しかし、大企業は市場を見ている。市場を見て、その市場で一番売れるもの、価値のある物は何かということで、大企業は事業を再生する訳だが、中小企業は一般的には、顧客が現在作っている製品の成長過程あるいは下降線に入る段階、ここで内在する問題をどの様に捉えるか。これが非常に大きなポイントである。

アジアに出来ない高付加価値の事業に生きる道

中小企業が生きるのは、アジアに出来ない、国内他社にできないモノをずっと追いかけることによって、解を見出している。これが中小企業の生きる道なのだが、メカニカル分野では、部品の高精細、高度な設計と加工にニーズが大きい。(図3)
最近私は、部品企業としてTDKや太陽誘電、村田などに付き合いがあるが、やはり高精度な部品を大量に作るというのは、非常に難しい技術である。設備産業でもあるので、なかなかこの分野に中小企業は入れない。
ここで言っているのは非常にニッチなモノである。ニッチとは言っても、コア技術や色々なものがあって、必ずしも大企業がやらないモノがある。大企業はオーバーヘッドを監視しないといけないから、物量が無いと中々トライできない。その様な分野での高精細・高精度な部品には、まだまだ必要性があって、その様な隙間を狙って、そこの設計と加工のニーズにチューニングしている。
エレクトロニクス分野では、アナログ、高周波、特殊回路など、大企業がある意味で捨てた分野である。捨てておいて、今になってオープンイノベーションで、中小企業でできる所はないかといっている。実際私もその様なマッチングをやっているが、大企業側の勝手な話である。今はここが、中小企業が生き残れる分野である。
今はLTEのブロードバンド無線に入ろうとしている。次は5 Generationといって、2020年の東京オリンピックに向けて、更にネットワークが高度化する。その世界で、大企業が捨てた裾野の中で生き残る。ソフトハウスが良い例である。
一時期、ソフトハウスが非常に流行った。大きなソフト会社があるが、その下に小さな会社が二段階、三段階くらいある。私の友人がその様な会社にいるが、その様な構造がこの世界にも出来つつある。
大企業は設計ができて、難しいことが言えても物が作れない、また非常に微細な加工が出来ない。これは共通語だと思うが、いわゆる基盤加工技術である。微細な加工、数ミクロンで削る。スプラインを非常に微細なメッキ加工する。チタンなどの加工。ステンレスにメッキする時間をコントロールする事で、メッキ厚で様々な色を出す事ができる。その様な、大企業では出来ない、やらない基盤加工が中小企業で非常に息づいている。ここは海外の追従を許さない所なのである。

図3

図3 アジアに出来ない高付加価値事業で生きる

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中小企業は連携して付加価値を高める

新事業をどうやって成功させるかを考えたときに、先ほども話した様にリソースがプアなので、いくら顧客から良いネタを見つけても、それに応えられるだけの力があるかといえば、正直に言って△である。
どうやって外部の力を活用するかという事が無ければ、顧客のニーズや課題に応えていけない。付加価値を上げるために、ここに書かれているような事を考える訳であるが、やはり最後は何処かと連携しないといけない。

サービス産業とモノづくりの相乗効果

もう一つ重要なのが、外部資源の活用である。
よく外部経済という言葉を使って、産業集積地に位置する企業は、知識のスピルオーバー、技術のスピルオーバーなど色々な意味でメリットがあるといってきたが、産業集積そのものが衰退してきたので、その外部経済のメリットがあまり無くなって来た。
その意味で、外部資源の活用という捉え方が、正しいのかなという疑問である。外部資源を活用する経営者の力、その中でもサービス産業をどう活用するかが非常に重要である。俯瞰すると、サービス産業とモノづくりの相乗効果は非常に大きい。 

外部資源を活用する経営者の力とは何か。

ここには、今話したことが書かれているが、企業集積の中にいるメリットが有っても、結局は経営者がセンシティブでないと、結果が出ない。その地域に非常に良い話があっても、鈍くて結局自分のモノに出来ない経営者が一杯いる。逆に成長していく経営者は、その様な事をガッチリと汲み取っている。
その背景を色々調べてみると、ここに書かれている様な色々なアクティビティが日常的にある。情報にアンテナが高い、地域の集まりに積極的に参加、よく役員などの地域の会合の役割をやっている。意識が高いのだと思う。
あとは、地域には同種業者が多いものであるから、地域外にも視野を伸ばして、多様な産業に触手を伸ばしている。これらが、成長している経営者の特徴である。
それから、大学の活用も巧みであるが、余り成果を出してない。大学にも利益相反的なモノもあって、特別固有の企業に対して全力投入するのは非常に難しい面があるようで、なかなか接点に苦慮している。公的機関はタダで使えるので、皆使いたがる。それなので、私も中小企業の親父にこき使われている。

図4

図4 外部資本を活用する経営者の力

地域だけでは無い多様な業種との連携

地域の一つの産業集積というのは、どちらかというと同種産業が集まっている傾向が多いので、異業種に手を伸ばさないとネットワークが広がらない、スキルの拡大が図れないという事が大きな背景にある。
親企業は、安い大量生産は海外に出すが、それなりの付加価値があって量が少ないモノは、日本の地域に展開するケースが多い。ロジスティクスの問題や、利便性の問題があって、近くに展開するという傾向が強い。
それから、支援サービス業とのコラボ・活用は、相乗効果を狙ってやっている。当然ながらリソースが小さい訳で、コアに集中しなくてはいけない。多様な外部スキルの取り込みをする必要がある。その様な事をやることで、新たな新事業・新製品を生み出そうというスタンスを経営者が持っている。

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サービス産業とモノづくりの相乗効果

サービス産業とモノづくりの相乗効果であるが、皆さんご存知の産業連関表がある。国や県、相模原市などの政令指定都市にも産業連関表があって、その地域の産業がどう中間投入されて、最終需要がどうなっているかを常にまとめている。
その様なモノがあって、実はサービス産業と製造業には非常に深い関わりがある事が分かっている。これは相模原産業創造センターで掴んでいる関係であるが、特に対事業所サービス・企業支援サービスなど(例えば「ITを構築する」といった支援サービス)が非常に大きな関係にあるという事が分かっている。
産業連関分析の評価で、影響や感度などを計算する。これは中間投入が最終需要のアイテムに対してどれだけ影響するか、どれだけの感度があるかということであるが、それらが高いということは相関があると見る。この分野を一時研究した。対事業所サービスは平均値と比べて影響度も感度も大きく、切っても切り離せない関係にある事がいえる。

中小企業の経営層に重要なスキル要件

これも経営者の話になるのであるが、重要なスキルという事ではこの様な事がいる。少し言い過ぎかも知れないが、成功している経営者は自分の得意な分野以外は手を出さない。自分が培ってきた分野・スキルに注力する傾向がある。
当然といえば当然であるが、経営者として非常に優れたスキルを持っているということが共通的にいえる。これはモノづくりの中小企業を並べるからそう見えるのかも知れない。ビジネスモデルなど、別の発想をすればそうでは無いかもしれない。ここでは、モノづくりをやっている中小企業の経営者なので、自ら非常に高いスキルを有しているといえる。
部下任せではなく、最終的には製品への展開を自ら発想できる人が、成功しているケースが多い。

図5

図5 中小企業の経営層に重要なスキル要件

ここで特に言いたいのは調整能力である。中小企業はリソースが小さいので、外部の力を使う、連携する必要がある。その意味で調整能力が、非常に重要な要素になっている。調整能力を具体的に言い換えると、信頼される人というか、そのような会話ができる人物の事である。そのような傾向があって、外部との調整能力が非常に高い。これが実は共通項として見える。

図6

図6 中小企業製造業における経営者の能力

お金に非常に詳しい

中小企業の経営者は、お金の仕組みやカラクリを非常に良く理解していて詳しい。また、技能・技術者出身の社長が多いのであるが、経営に対しても非常に詳しい。もちろん勉強している。
たとえば公的機関が簿記の研修・セミナーを開催している。主催者側は経理担当者向けと考えているが、1/3くらいは社長が来ている。
それくらい意識が高い傾向があって、その結果、お金に非常に詳しくなる。管理会計・税務会計というと、「期を割って1.5~2ヶ月位に自分の会社の業績がわかる」というバカなことをいう人がいるが、あれは毎日・毎月見ないといけない。
その意味で財務会計もさることながら、管理会計、今日いくらのお金の出し入れがあって、今日の在庫はどうなっているのかということを日々見ていないような社長は成功していない。
現金の支出、月々出て行く固定費がどの位あるか、ということが管理で見なければ、高い次元のコアを見つけても、やはりビジネスにはならない。 

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ニーズや課題に対応し組織を自ら柔軟に変える

戦略を実行してそれを実現するためには、戦略を立てるのは社長であるが、実務で本当にシャカリキになってやる人は、社員であり幹部層の訳で、そこが動かないと社長が書いた戦略は絵に描いた餅になってしまう。
少し偉そうな表現をしたが、組織の柔軟性、新しいニーズ・課題・開発に対して組織をどのように変えていけるか。大企業は事業部制があったりして、がんじがらめで変われない。成長している中小企業は変わっている。ニーズや課題に対応して、組織を自ら柔軟に変えて行く。言い換えると変革の容易性がある。大手企業には出来ないことが、成長している中小企業は内在しているということが言える。適用性も同じことである。完成させるための組織の枠組みの要素を変えていく。そのような事が用件としてある。
いくら戦略を実行しようとしても、組織の対応性が無ければこれを完遂できない。その結果、社員同士あるいは幹部と部下の高度な情報の共有が出来る。そのような環境が形成される。
それが全てではないが、人間関係がうまく言っている中小企業は良いである。組織がフラットであるし、社長に対していろいろな意見が言える、アイディアを出せる。それを汲み取るだけの社長の技量もある。
そのような環境の中で事業が醸成して行く。実はこれらには、開発するための組織のあり方・資質に対して、社長の思い、資質、マインドが背景にあると感じている。

「働く幸せ」を分かち合える会社、人間中心の職場、人生を託せる会社

残念ながら中小企業には、なかなか優秀な人を最初から雇うというチャンスに恵まれない。ピカイチの人が中小企業に来るかといえば、まずは来ない。「優秀な人を何とか探して雇う」というアクションは当然あるが、やはり「雇った人材をどうやって育てるか」という事で、研修・教育への参加が行われている。
人づくりである。
私もある企業の中堅向けコースを持っているから、そのようなところから沢山派遣されてくる。やはりそのような出来る社長の会社から送られてきた人材はやはり意識が違っていて、非常に前向きに勉強する。それから雇用重視。人員整理で事業を建て直すというのは、果たして経営者のやることだろうか。
全てがそうだとは、いわないが、傾向として非常に雇用を大事にして、赤字なのであるが人を切らない。中には苦肉の策でボーナスが出せないという場合もある。社長が自ら自分の給料を削って社員の給料を守るケースもある。その意味で、ここに原点がある。だから社員は非常にシャカリキになって頑張ろうという思いがある。

知育・徳育・体育の重要性

皆さんよくご存知の「知育・徳育・体育」という言葉は日本人が考えたように思えるが、実は違っていて、元々ハーバード・スペンサーの「教育論」の中で言われたものである。
この人は学校には行っていないが、教師である父親から教育されて16歳で鉄道技師になった。非常に勉強家で、その後にいろいろな出来事を書物に書いて世に名を馳せる事になった。イギリスの雑誌「エコノミスト」の副編集長をやった人である。
その後に下野して、あらゆる本を書いた。日本で言えば明治初期、文明開化の創世記にこれが非常に読まれた。国立国会図書館にも明治の文語体の書物があるので、デジタルデータで読めるから興味のある人は読んでみて欲しい。残念ながらあまり良い訳が出ていないが、「教育論」を尺振八が「斯氏(スペンサーの当て字)教育論」として翻訳している。
そこで「知育・徳育・体育」といわれていて、これが日本型経営の源流に通じる所があるのではないかと思う。この後に、日本最初の文部大臣であり、一橋大学を作った森有礼に大きな影響を与えたと言われている人である。非常に有名な本で『スペンサーの教育論』として知られている。
その後、徳育が日本人の教育で非常に重要であると明治初期の日本で言われ、それでいまだに言われている訳である。また、皆さんご存知の渋沢栄一が、道徳経済合一説という、銭儲けの為に事業をやっているのではないという話をしている。色々な事業を興して、日本産業・経済の生みの親といわれているが、この人がやったことを振り返ってみると、その根底には、この道徳経済合一説がある事が良く分かる。
色々な訳が出ているが、その中で「道徳と実業」というのが面白いと思う。このような事を考えていくと、だんだんと偏った考え方になって来たが、技、戦略、知識、経験は非常に重要だが、それを生かすも殺すも社長の思い・心にあるものが重要だと、やっと最近になって本質がどこにあるのか、少し分かって来た。
それまでは技や戦略など色々とやってきたが、それを生かしている社長と、そうでない社長、成長している社長と、そうでない社長の間には相関がありそうだという気がしてきて、このような事を他所でも力説している。

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質疑応答

どの様なキャリアパスで、どの様な勉強をして、どの様な人に会って

意見(角忠夫評議員、むさしの経営塾塾長):中小企業で規模がそんなに大きくなっていないのであれば、仕事を始めた時には、普通の人だったと思う。その様な人が10年、20年、30年と経って、結局108社の中で十数社だけがROAが良好な会社の社長に成長したのはなぜなのか。

回答(小林講師):事例を紹介したい。自分の嫁の父親の会社を継いだ社長の話を聞いた。継いだときには、実は会社が傾きかけていて、死ぬほどの苦労をしたそうだ。部長になる間際だったが、社長である義父が倒れて一年半くらい経って、会社がおかしくなって、会社をたたむかどうかという事態になった。
その時期は、勤めていた会社のものづくりがおかしくなって、その社長が当時地域の工場に赴任することになっていた。それで家庭生活もおかしくなりつつある中で、義父の会社を再建する事にチャレンジした。傾きかけていたので借金も沢山あるし、銀行を年中駆け回って、彼は非常に苦労した。その様な苦労を経て、今や人間的にも立派な人に成長しているが、それが事業の再建を支えている。外部経営者&企業との連携する力、従業員とのコミュニケーション、マネジメントに役立っている。
そのプロセスの中に、ものすごく苦労している過程があって、人間的な苦労をして育ってきた。それを社員が支えたという構図があった。

角忠雄評議員

「108社の中で十数社がROAの良好な会社に
成長したのはなぜか」と質問をする角忠雄評議員

意見(上川晋一郎DSP代表取締役):参考になるのが「人」の部分で、いま感じているのは、会社が大きくなるもならないも、すべて人から始まると思っているので、今日先生のおっしゃられた「人間性を磨く」というのはやはり永遠のテーマだと思う。その点、自分の思っていることと一緒だなと改めて思った。私も、起業したときは自分の欲で起業したが、自分の欲だけで会社経営していくのは限界があるので、先生が今回言われた社会への貢献が一番の貢献であり、会社を大きくするためにもそれが必要だという事を、改めて再確認した。

回答(小林講師):その様な思いに至った経緯はどうか。ここ西河塾での教育や経営セミナーなどを経て、思いが変わって、儲けるところから世の中への貢献を考えるようになった、その様な関係はあるのか。この教育を受けたから分かったと言えるモノはあるか。

意見(上川):技術はもちろんだが、西河技術経営塾で学んで一番心に残っているのは、「一円でも多く儲けて、税金を納めて日本の社会を良くする」というワードである。すこし表現が難しいが、このような教育が経営者の思いを変える。マインドを変えるということか。
西河技術経営塾に入る前は、「いかに節税して税金を納めないようにするか」という事を考えていたが、それが大きく180度変わった。考えが違っていたと気付いた。

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価値ある固定費をどうやって見出すかという経営をやらなければ駄目だ

司会(小平):西河塾では最初に「簿記・仕訳が出来るか」と聞く。出来ない人は出来るまで教える。仕訳が出来ない経営者は、会計数値を見ても分からない。

回答(小林講師):固定費があって変動費が乗っかって、損益分岐点はどこだとやって、固定費をどうやって下げるか、変動費のtangentのカーブをどうやって下げるのかという議論をするが、それは実は経営ではない。
シュリンク経営なのだ。だから、固定費の中でも付加価値を稼ぐ固定費とマイナスの固定費があって、価値ある固定費をどうやって見出すかという事に奔走する経営をやらなければ駄目だ。
拡大していく経営とは何か。固定費の中にも価値を生む固定費とマイナスの固定費があって、それをどうするかという議論が、本来の経営にはあるはず。その様な議論を、損益分岐点の話の中でよくやる。固定費とは何か、その中で価値ある固定費をどのように拡大するか。売上げを上げるためには、固定費を上げざるを得ない面もある。新事業を展開するために、固定費がかかる。それだけのリソースを投入しないと売上げが上がらない面がある。その意味で、価値ある固定費、何処にお金を掛けるかという議論が、本来はなされるべきだという展開をしている。

小平専務(左)と小林講師(右)

「簿記・仕訳が出来なければ、会計数値を見ても分からない」
と小平専務(左)が小林講師(右)に問う。

日本型経営を大事にしながらアメリカのMBAを活用する

意見(前田光幸):経営人材については、西河塾のテーマでもある。最後の方の日本型経営、心の経営には、非常に共感する部分が多い。
私はアメリカ経営システムの半分は信用していないが、半分は利用したほうが良いと思う。大事にしなければいけない日本型経営は大事にしながら、その様なものも活用していく。その結果、組織的に若干の矛盾は出るのですが、それはケースバイケースで対応していかなければいけない。今日は非常にプラクティカルなお話で参考になった。

質問(杉本晴重理事、元沖データ 代表取締役社長 CEO):実は実家が中小企業だったので、本当は私が三代目のハズだったが、そちらを選ばなかった。見ていて中小企業の経営者の苦労は、先ほどのお金の話にせよ、大企業とは全く違う。それで、若いうちから会社全体を見るチャンスがあるというか見ざるを得ない。決断しないといけない。その様な場が、毎日のように出てくる。大企業は、その様なことは、余り無い。私も海外の子会社にかなり若い頃に行っていたが、そのときに大企業の経営とは違うなと感じていた。その時の経験はずっと後々まで残っていて、やはり中小企業の強さと、克服しないといけない課題があるが、中小企業の方が正直言って好きだ。

回答(小林講師):私も悩んでいるが、海外の良いところと、日本型の良いところをどうやってマージしていくか。一時は、良いところ取りを考えて見たのですが、まだ解を見出せてはいない。MBAは駄目だという人もいるが、手法や戦略など色々なものを知っている事は、同じ思いがある中で、やはり強い。しかし、なかなか歳をとってから技術経営などを勉強しようという人は、余りいない。
なぜかと聞いて見たら、やはり自分でやってきた自負があって、いまさらMBA、MOTを勉強する必要は無いという人もいた。MBAもMOTもそうだが、日々の経営に煩わされながらも、やはりその様なセオリーを勉強する機会も非常に重要で、その様なものを日本型経営とマージしていく、その様な事に良い接点が見つけられるのかなという思いもしている。

司会(小平):どうもありがとうございました。

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技術経営人財育成セミナー

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